BNJMN - Black Square

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  • 新しいアイデアやアプローチの集合体が単に客観的でテクノロジーに偏向したサウンドや見かけ倒しの実験ごっこでしかないと考えているのなら、あなたは2011年の音楽をそれほど熱心に聴いていないといえる。"Future music"は未来のロボットのサーボシステムや1000年後のメガロポリスを想起させる。Machinedrumの深くエモーショナルなデジタルサウンドがここ最近のAndy Stottのような非常に解像度の高いサウンドと融合しているようでもある。未来というタームは現代ではとりたてて珍しい題材ではないが、これほど剥き出しの感情に訴えかけるものもない。 BNJMNの『Plastic World』は2011年にリリースされたアルバムのなかでも傑出した作品のひとつであったが、前述のような仮説にはあてはまらないといえよう。むしろ、意図的にサイエンスフィクション的な要素を盛り込んでおり、饒舌でありながらも深い質感をたたえたフリークエンシーはインターネット的な空間を飛び越えてFritz Langの『Metropolis』的な世界を想起させる。『Plastic World』がサウンドの構造における実験(たしかにそれは非常に豊かなものだった)としたら、それに続く今回の『Black Square』では前作で築いた構造の上へ積み上げ、さらに生命を吹き込むようなものになっているといえるだろう。 『Black Square』では前作のようなディープな質感のみにフォーカスした内容ではないが、BNJMN自身のアーティスティックなヴォーカルは前作以上に明瞭なタッチを与えている。"Primal Pathways"での暖かで緻密なコードを聴けばAphex Twinのアンビエント作品からの影響は明らかだが、単なるコピーには終わっていない。細切れでありながらも自然な、実に変わった質感を持つパーカッションには現在のUKベースミュージックとの親和性を見つけることができるのだが、細部の質感はやはりBNJMN独特のものだ。彼はこれまで以上にワイドなレンジでサウンドを鳴らし、"Keep The Power Out"や"Black Square"といったトラックでは筆舌に尽くし難い暖かなアンビエンスで満たされている。 あるひとつの感情にのみフォーカスしているように聴こえるトラック、たとえばエレクトロ調の"Wisdom of Uncertainty"といったトラックであっても、わたしたちはそこに込められた以上の感情を読み取ることが出来るはずだ。アルバムは中盤を過ぎてさらに勢いを増し、"Open The Floodgates"ではアルバム前半で展開されていたさまざまな感情が感動的なクラブトラックとして一気に収束されるような感覚がある。"Lava"でのスロウで深く、それでいて躍動的でもあるグルーヴから、"Hallowed Road"におけるビートレスで展開される穏やかなシンセは厳粛で抑制されたムードでアルバム終盤へ導く。今回のアルバムにおいて真に特徴的な事実は、BNJMNが他の誰とも違うサウンドをやってのけていることだ。その音楽自体がパーソナルなものであろうとなかろうと、結局リスナーが音楽を聴くという行為は究極的にはパーソナルなものでしかない。このアルバムは非常に内省的でありながらも、その視点は広く外側に向けられている。その生き生きとしたムードはなによりも特筆すべき点だろう。
RA