Emika - Emika

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  • チェコ出身で現在はベルリンに拠点に置き、NInja Tuneから重厚なベーストラックをリリースするプロデューサーEmikaの存在をよく知らない人でも、Tommy Four Sevenの“ Primate”や、Ostgut Tonのコンピレーション・アルバムにも登場した、あの得体の知れないボーカルにピンとくる人はいるだろう。ブリストルのダブステップ洞窟からベルリンBerghainでのパフォーマンスまで、彼女の音楽経歴は実に‘歪んで’いる一方、彼女のサウンドはトリップ・ホップそしてテクノといったハードコアなものに独特の冷たさを加えたかのような、彼女らしい安定したスタイルを保持している。ここまで説明したら、彼女がサウンド・エンジニアとしての顔を持っていることも容易く想像できるであろう。彼女のサウンドは入念にデザインされ、クラブナイトだけでなく日中のサウンドトラックとしてのクオリティーも持っている。 こういったアプローチのせいか、Emikaの今回のアルバムは"Be My Guest"といった激しいダブステップ・トラックを除けば、空っぽの貝殻みたいなものだ。彼女はトラックを、‘サウンドが宿り反響する為の非連続的なスペース’として捉えているのだ。とりわけEmikaの音楽は恐ろしい程フィジカルで、周りのもの全てを吸い込んでしまう緊迫した沈黙にも似たクオリティーだといえる。アルバムをヘッドフォンで聴くと、48分もの間自分という存在が居心地悪く消えてしまうような錯覚に陥り、そしてハイクオリティーなサウンドシステムで聴くとたちまち驚愕し、彼女の音の虜となるだろう。例えば"Drop the Other"は、まるで真っ暗闇で空虚なゴシック的感覚、そしてそれの延長で生まれた豪華絢爛なバロック調インストルメントの流れを感じることができる。 アルバム『Emika』は、アイデンティティーのある強烈な作品だ。アルバム・カバーは彼女のアップの写真で、特徴的なボーカルと喘ぎ声がアルバムの始めから終わりまで漂っている。NicoとBeth Gibbsonのちょうど中間あたりであろう彼女の張りつめた吐息そして喘ぎ越えは、このアルバムのキーワードであると言っても良い。繰り返されるシンプルなメロディーの"Double Edge"や、ボーカルを重ねて仕上がった奇妙な雰囲気の"FM Attention"を聴いても分かるように、彼女は自分の声を、トラックを強調するためのエレメントとして用いている。インダストリアル感漂う1曲目 "3 Hours" では、ボーカルをフル活用したものになっているが、曲のテーマであるSMの不安定なセンシュアリティー(官能性)や怒りは、無感情なEmikaのボーカルでは伝えきれていない印象だ。しかしそれはアルバム中でもレアなケースで、"Double Edge"や "Professional Loving"をみても、彼女のボーカルのその重ね具合は、激しい音と振動のハーモニーをうんでいる。 Emikaはチャレンジ精神に富んだアーティストだ。アルバムでは、終始一貫したメロディーがなく、‘フィットしない’サウンドがやってきたかと思えば、すぐに消えてしまう。ダンス・ミュージックというよりは、サウンド・アートと言うべきだろう。しかし、前述したように"Count Backwards"や "Common Exchange"は間違いなくクラブをロックしてくれるだろう。
  • Tracklist
      01. 3 Hours 02. Common Exchange 03. Professional Loving 04. Be My Guest 05. Count Backwards 06. Double Edge 07. Pretend 08. The Long Goodbye 09. FM Attention 10. Drop The Other 11. Come Catch Me 12. Credit Theme
RA