Sandwell District - Feed-Forward

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  • Sandwell Districtの始まりは2002年にさかのぼる――2011年初頭、いまわれわれはその完成した全体像に迫りつつある。Function、Regis、Silent Servant そしてFemaleは、決して積極的に匿名性を追及しているわけではない、彼らのレーベルを覆う色合いがぼんやりとしているのは、単にインフォメーション不足というだけにすぎない。昨年以前のことをどれだけのひとが知っているだろう――たとえばFunctionのこの20年間におよぶテクノとの関わり合いだとか、Silent Servantがポスト・パンクやインダストリアルで山積みになったレコード・シェルフを持っているとか、またRegis がレーベルで果たす役割は「前進を中断させる」ことである、などということを。そして、美的見地からすれば、Sandwell Districtとしてのこのファースト・アルバムは、レーベルがあえて挑戦した「総力をあげての成果」に近いものだ。アルバムの9トラックが刻まれた透明な2枚のレコードに、John Mendez (Silent Servant) のアートワークによるファン用マガジンと、おまけの7-インチが添付されている。 けれども、もっとも適切なのは、Feed-ForwardがSandwell Districtのサウンド世界が持つ、もっとも重要な満ち溢れる探究心を表現したということである。頻繁に出現するテーマ――不吉なストリングス、とがったシンセ、メタリックな残響――は、このレーベルが2ダースほどのリリースを経てようやく本性を現したかのようで、アルバムの1曲目 ”Immolare(First)” でそれがとてもよくわかる。しかしFeed-Forward の真の勝利は、既定の構成を転換したことにある。最近のプロデューサーに、コレクティブによって組み立てられた、変えようとしても変えられないテクノの青写真を改善しようとする者はほとんどいないが、ここではエモーショナルな音域を測る出発点として使われているにすぎない。Sandwell District風 “Grey Cut Out”(たっぷりのシンセによるストリング・セクション、鋭いドラムサウンド)は、今までそのグループに感じられなかった心に強く訴えかける90年代初頭の力強さに匹敵する。“Double Day”は、周囲を脅迫でもするのかと思わせられるが、しかしすぐに、希望に取って代わり――それがつかの間の出現であっても、曲を締めくくる穏やかな30秒のシンセ・ソロはとても魅力的である。 ”Speed + Sound” は、絶壁から後ずさりする前に、あるいは天空にそびえる城壁が崩れる前に、とでもいうように煽り立てるノイズとふざけあいながらアルバムを締めくくる。 実験的な作品がならぶのにもかかわらず、Feed-Forwardは依然として表向きはテクノアルバムである。オープニングの曲の3つのパートのうちの2番目の部分は、Shedの裂けるようなクラックリング・コードとロー・エンドな轟音を思い出す―3番目のパートは、アルバムの中でもっとも明白なBerghainへの賛歌である。かたや、息をのむというにはほど遠い“Hunting Lodge" は、交互に現れるリズム、ウッディーなミッド・レンジによるテクスチャー、不吉な味わいのシンセの試み、とはいえテクノの限界を広げた”Svar"のような曲もあることはあるのだが。この場合もまた、カットは特色あるSandwell District の跡を残しているが、それにしても彼らの仲間が幸福感を感じさせてくれたのはいつだったであろうか。 Regisはとくに、プロジェクトの完ぺきでのびのびとしたビジョンによって、使い捨てだと分かっているようなテクノからレーベルは脱出したいのだと語っており、また見解とサウンド双方で、Feed-ForwardはSandwell District の深みに完ぺきに没頭している。より広い視野でみると、この点について、コレクティブが単にDIYポスト・パンク時代の影響をまねしているだけだと主張する人もあるだろう。しかし、たいていのこと・ものが簡単に、自由に、しかもすぐにできる今日、過去に向き合うことが、たぶん、想像された未来を引き出す最良の方法なのであろう。
RA