Giorgio Gigli - The Right Place Where Not To Be

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  • ローマのDJ/プロデューサーGiorgio Gigliは10年以上に渡ってイタリアのテクノシーンで重要な役割を担っており、ベースラインを主体にしたヒプノティックなサウンドをソロ作品とコラボレーションを通じて発表している。Elettronica RomanaやPrologueといったトレンドを生み出すレーベルに提供した初期作品(共に英語サイト)を除けば、彼が最もよく知られているのは、同郷のイタリア人アーティストObtane(aka Francesco Baudazzi)と共に運営しているレーベルZooloftだろう。ドローンを使用した同レーベルのダークなEP群によって彼らはカルト的な支持を獲得し、Gigliはその制作アプローチを拡張的に構築し続けてきた。Electric Deluxeに提供したファーストアルバム『The Right Place Where Not To Be』において、彼は制作手法に磨きをかけ、じわじわと盛り上げるテクノによる情感溢れる展開を生み出している。 普段のGigliはゆっくりとしたテンポを好むが、今回はさらにゆっくりとしており、『The Right Place Where Not To Be』の大部分がBPM90~100となっている。全人類/動物が絶滅してしまったという架空の映画にあてるサウンドトラックとして生み出された本作を聞くと、Zooloft作品のBサイドに入っているような、情景を喚起させるアンビエントが思い浮かぶ。10分間の壮大な序曲"Il futuro è solo un ricordo di uno stupendo passato (Everything Begins Here)"によって、掻き回る低音、音数を控えたドラムパターン、オーケストラの要素、そして、亡霊のようなリバーブをブレンドしたディストピアの空気が冒頭から流れ始める。このサウンドはGigliがキャリアを通じて活用してきた拡張的なスタイルにあてはまるが、ハッキリとした目的がある試みのようにも思える。城の堀のように、もしくは、(ジャケットデザインを考えれば)山脈のように、残りの収録曲を取り囲んで守ろうとしているのではないだろうか。 "Surrounded"は脳裏に残るポリリズミックなハイライトだ。シンコペートするキックと軽い破裂音の間を3/4拍子のベースリフが行き交う。ほとんど存在を感じさせないマシンファンク上で活き活きと旋回するアンビエンスが重なり合う"Silence Was Infinite"は、本作すべてがダークな訳ではないことの証明になっている。収録曲は単独でも成立し得る一方で、複数曲にまたいで変容していく重要な要素やテーマがいくつかある。アルバム中盤の"Eve Of Destruction"と"Nocturne"では、二部構成の壮麗な組曲が形成される。前者で使われている広大なコードは刈り取られて装飾音へと変化し、水流に似た音を立てる後者のローエンド上で時折鳴らされる。"The Silence Was Infinite"での軽快な感覚は引き締まった形態となって、性急で落ち着きのない"Through Leaden Clouds"に再登場する。そして、後者の静かな攻勢は最後のトラック"Shades Of Depth"になるとスタッカートで鳴らされるシンセと衰弱したサイレンへと変容していく。 Gigliのテクノトラックは澱んでいて好き放題やっていると幾人かに評されてきた。彼のトラックが暗がりから頻繁に出てこないのは確かだ。しかし、ニュアンスやドラマティックな輝きに対する審美眼は彼のスタイルの特質であり、『The Right Place Where Not To Be』の陰鬱としたリズムがそれを最大限に表している。黒みがかったその美しい輝きにより、抗いようのないトリップが実現されているのだ。
  • Tracklist
      01. Il futuro è solo un ricordo di uno stupendo passato (Everything Begins Here) 02. Last Frame Of Myself 03. Surrounded 04. Eve of Destruction 05. Nocturne 06. The Silence Was Infinite 07. Through Leaden Clouds 08. Shades Of Depth
RA