- SOPHIEほど徹底して意見が分かれるアーティストはそうそう出てこない。それゆえ、そういうアーティストが出て来た場合、どこで意見が分かれているのかを分析するだけの価値がそこにはある。もちろん、常に要因となるのは実際の音楽だ。SOPHIEがこれまでに発表してきたシングルは、大袈裟なもの(英語サイト)、前代未聞のもの(英語サイト)、そして、当惑させるものなど、尋ねる人によってその答えは様々だ。しかし、最も深い亀裂となっているのは特定の何かではなく、もっと概念的なものであり、臆面も無くバカバカしく、陽気で、ポップやEDMの要素に魅了されたアンダーグラウンドなダンスミュージックが持つ意味に対する疑問と批評を伴っている。SOPHIEのトラックは勝手にシリアスを決め込んでいるダンスフロアを覆そうとしているのだろうか? もしくは保守的なリスナーをまんまと騙そうとしているのか? そして、コマーシャルでの有用性を狙って作品作りをしているようなインディペンデント・プロデューサーを私たちはどう判断すればいいのだろうか?
歴史と透明性を重んじるコミュニティでは、SOPHIEは混乱の元になる。つまり、いかがわしい意図を持つ、イデオロギー上の異端となるのである。そして、この問題に対する立ち位置により、音楽的趣向がオールドスクールなのか、先進的なのか、はたまた、歴史に無関心(!)なのかを示すことになり、シーンに対する忠誠ぶりを示すことになる。SOPHIEがそうした存在になってから3年間を経て到着する『Product』は実質、彼の発育期を締めくくる作品だ。Numbersから発表していた2枚のシングルに未発表トラックを4曲加えた本作は、きらびやかなパッケージングや付随商品を追加することで仕上げられており、その受け手となるリスナーがどのような反応を示すのかを診断する。
2013年にSOPHIEがHuntleys + Palmersからデビューした時のシングルには、SOPHIEによる次の文章(英語サイト)が添えられていた。「僕は楽しく踊れる音楽を作ろうとしている。それはきっと話し声を派手に使った音楽だと思う。テーマパークのジェットコースターみたいにスリル満点の3分間を音楽で味わうことができたら、すごくエキサイティングじゃないかな」。"Vyzee"はそんな彼の最もキャッチーな一面であり、少しナンセンスで幼稚なレイヴサウンドがQTの姉貴分のように打ち鳴らされる。4つ打ちのキックや、メロからサビへと進む構造を組み合わせた同トラックは本作で最も明快であり、前述の領域を華麗に活用しているSOPHIEが見受けられる。最後の"Just Like We Never Said Goodbye"はアドレナリンジャンキーとキラキラした子供たちを対象にした、スタジアム級のビートレスバラードだ。こちらも最大限の効果が実現されるよう、彼のサウンドがアレンジされている。SOPHIEは自身の奇抜な一面を違えて理解することで、異なる音楽性を提示している。例えば、"MSMSMSM"はトラップど真ん中の激しいトラックになっている。そして、"L.O.V.E."も奇妙なトラックだが、クラブサウンドを解体した粗削りなサウンドには、『Product』がカバーする音楽性との関連性はほとんど無い。しかし、異なるスタイルを見せるものとして、こうしたトラックは独自の感動をもたらしてくれる。
『Product』のトラックは時系列に沿って収録されているが、"Bipp"ほど完ぺきなオープニングトラックは他に無いだろう。"君を気持ちよくしてあげる、僕に任せてくれるなら!(I can make you feel better, If you let me!)"というメインのボーカルフックに身を沈めてみてほしい。そうすればベールに包まれたSOPHIEの一面を垣間見ることができる。同トラックに続く25分間で何を意図しているのかを彼は端的に教えてくれる。そして、彼が唯一リスナーに望むのは、警戒を解くことだ。カルチャー的な文脈、過度のマーケティング、陰謀説、そして、メインストリームにおける注目(いずれも英語サイト)を混同しなければ、『Product』はシンプルに先進的で、非の打ちどころ無く制作された、ダンスフロアに笑顔をもたらす以外に何も望まないエレクトロニックミュージックだ。"Vyzee"の歌詞が軽薄に提案しているように、"クラブで大騒ぎしたっていいんだ。それが君の望むことなら(We can go crazy in the club, if that's what you want to do.)"
Tracklist01. Bipp
02. Elle
03. Lemonade
04. Hard
05. MSMSMSM
06. Vyzee
07. L.O.V.E.
08. Just Like We Never Said Goodbye