Shinichi Atobe - Ship-Scope

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  • 人知れず埋もれている音楽を発掘するなら、Demdike Stareに任せておけば間違いない。昨年、彼らはBasic ChannelのレーベルであるChain Reactionのアーティストが残したアーカイブスをくまなく捜索した。彼らが目を付けたのは高く評価されているレジェンドではなく、比較的知名度の低い日本人プロデューサーであるShinichi Atobeだった。2001年、彼はドイツのChain Reactionにとって最後から2番目となるレコードを提供している。DDSが発表した『Butterfly Effect』により、Atobeには多くの楽曲が残されていたことが明らかになった。このアルバムには、かつてなく精巧に仕上げられたテクノトラック"Butterfly Effect"を中心に、奇妙なアンビエント実験作と、脳裏に焼き付く短編トラックが収録された。『Butterfly Effect』に影響を与えているのは、AtobeがChain Reactionに残した唯一の12インチであり、カルトクラシックとなっている「Ship-Scope」だ。今回、Sean CantyとMiles Whittakerは「Ship-Scope」をヴァイナルで再発した。『Butterfly Effect』同様、本作は一音一音に至るまでダブテクノにとって極めて重要な記録物になっている。 昨年の発表時に『Butterfly Effect』が非常に魅惑的だったのは、時間を超越して存在しているかのように感じられたからだ。同作は一方で過ぎ去った時代から発掘されたエレクトロニックミュージックでありながら、他方では、後にも先にも無いサウンドだった。「Ship-Scope」にも同じく青味がかった灰褐色の雰囲気が漂っているが、泡立つダブテクノシンセにより、よりハッキリとChain Reactionに系統を成すトラックに仕上がっている。本作の前半には、短く実験的なトラックが収録されている。海中を思わせるビートレストラック"Ship-Scope"では、波のあぶくのように浮かび上がってくるコードがフィーチャーされている。Atobeのコードが何も無い空間を彷徨う様には安らぎがあり、熱狂的なニューエイジファンの心にも響くはずだ。 以降、トラックはよりダイレクトになっていく。"Plug And Delay"では、打ち寄せるリズムがじりじりと構築され、散在する枠組みの中をメインとなるシンセが弾けている。その後に続く"Rainstick"は直球テクノトラックだが、たった1分半で終了する。"Rainstick"があまりにも短く残念に感じたならば、Bサイドを埋め尽くす"The Red Line"は、その埋め合わせだけに留まらないトラックだ。このトラックこそ「Ship-Scope」における"Butterfly Effect"だ。優雅さと精妙さを伴いながら無限へと拡張していく、密やかに壮大なテクノアンセムである。アパートの窓を滴り落ちる雨を見ているかのように、トラックの基盤上にぼんやりとしたメロディが塗り付けられていく。厭世的で悲しげながらも、奇妙な高揚感がある"The Red Line"によって届けられる感覚は、万物共通に感じられるほど不明瞭で、同時に、圧倒されるほど独特だ。これぞ、Atobeの特異な資質なのではないだろうか。
  • Tracklist
      A1 Ship-Scope A2 Plug And Delay A3 Rainstick B1 The Red Line
RA