Arturia - BeatStep Pro

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  • 価格面と機能面を素晴らしいバランスで提示したArturiaのハードウェアシーケンサー、BeatStepの初期バージョン(英語サイト)をレビューしてから1年と少しが過ぎた。MIDIとCVの両方をシーケンスする機能と、コンピューターからの信号をCVでアウトプットする機能を、たった99ドル(約12,000円)で提供し、多くのプロデューサーから、とりわけ、ビンテージ機材やモジュラーシンセを所持する人たちから称賛を勝ち取った。しかし、初期バージョンの発表以降、Arturiaはファームウェアのアップデート(英文PDF)を1回しか行っておらず、ここのところBeatStepに関する話題が少なくなっていた。先のアップデートは少なくとも、初期バージョンのレビューで掲げた変更希望リストのひとつに対処していたが、BeatStepのワークフローが持つ特異な性質が十分に変更されなかったため、同機が筆者自身を含む多くのプロデューサーによって日常的に使われるツールになることはなかった。どうやら、沈黙状態の理由のひとつは、Arturiaのチームが後継機となるハードウェア、BeatStep Pro(英語サイト)の設計に勤しんでいたからのようだ。今年のNAMMショーで公表された同機は、7月から販売が開始された。 一見したところ、BeatStep Proは初期バージョンが成長して大きくなったように見える。そして実際、多くの意味で成長を遂げている。ベロシティ/プレッシャーセンシティブ機能搭載のパッドが8個 x 2列の計16個、そして、各パッドに対応するエンドレスエンコーダー(ノブ)が16個と、初期バージョンと同じ配置が引き継がれている。BeatStep Proのノブは若干高くなり、タッチセンシティブ機能なる新たな要素が加えられている。これにより、指先を気になるノブ上に置くだけで、そのノブに設定されている現在値がBeatStep Proの新たなメイン液晶ディスプレイに表示されるようになった。Arturiaはディスプレイ回路を高性能に仕上げており、0から127までの数字だけではなく、ピッチのコントロール時にはノートの音高が、そして、タイミングシフトのコントロール時にはポジティブからネガティブまでの範囲が表示されるようになっている。ハードウェアシーケンサー上では、このフィーチャーが大きな助けとなる。視覚情報が完全に欠落していた初期バージョンから劇的な進化を遂げたと言える。 パッドとノブ以外では、初期BeatStepとProの類似点はほぼ皆無に等しい。BeatStep Proのノブとパッドに挟まれた場所には、16個のステップボタンが新しく配置されている。これにより、初期バージョンでの限られた機能よりも、尺が長く優れたシーケンス作業が行えるようになったことがうかがえる。パッドとノブのすぐ左には、液晶ディスプレイと関連するボタンが配置され、3つのシーケンサーとMIDIコントローラーのレイヤーを切り替えることができるようになっている。一番左側はグローバルコントロールを変更するセクションとなっており、トランスポートボタン、テンポコントロール、シーケンスの長さとトランスポーズを変更するボタン、スウィングとランダマイズの度合いを変更するノブ、ノートロールとシーケンスのループに特化したタッチストリップが配置されている。そして、機体のリアパネルには圧倒的な数の接続オプションが用意されている。MIDI用USB、ミニジャックのMIDI IN/OUT、そして、厳選されたCVポートという総計19個の挿入口だ。電圧ベースのシーケンサーであれば、そのほとんどにCV/ゲート用アウトプットが搭載されているが、BeatStep Proはそこから次のレベルに進んでおり、クロックイン/クロックアウト、ふたつのメロディックシーケンサーそれぞれに対応した個別ベロシティアウトプット、そして、8つの独立したドラムトリガー用ポートが加えられている。 前述のとおり、BeatStep Proは同時にコントロール可能な3つのシーケンサー(メロディックシーケンサーが2つとドラムシーケンサーが1つ)を搭載している。各シーケンサーは一連のCVアウトプットと紐づけられており、それぞれに設定されたMIDIチャンネルにUSBとMIDIアウトプットを通じて信号を送るようにセッティングを変更可能だ。各シーケンサーのMIDIチャンネル設定とコントローラーのレイヤー設定はとてもシンプルだ。「CHAN」と書かれたボタンを押し続けると、各ステップのボタンに設定された現在のチャンネルが表示される。さらにLEDの色は各チャンネルに何がアサインされているのかを示している。「CHAN」ボタンを押さえたままステップボタンをひとつ押すと、現在選ばれているシーケンサーかコントローラーのレイヤーをアウトプットチャンネルにアサインし直すことができる。BeatStep ProはMIDIインプットもサポートしている。これにより、外部機器からのノート情報をシーケンスに記録することができる。初期バージョンに比べると大きな進化だ。しかし、インプットチャンネルの設定はArturiaのソフトウェア『MIDI Control Center』からのみ変更可能となっている。もしインプットチャンネルとアウトプットチャンネルを繋げるオプションが搭載されていれば、さらに納得の仕上がりになっていただろう。そうすればコンピューターを近くに置いておく必要が無くなるからだ。 BeatStep Proに入力されるMIDI情報を記録する機能は、Arturiaがシーケンスのワークフローに追加した強化点のひとつだ。さらに、パッドを使ってノート情報をシーケンスにレコーディング可能になったのも素晴らしい。しかし奇妙なことに、BeatStep Proはノブで設定するノートに適用されるスケール制御機能を引き継いでおらず、今回は1オクターブずつ上げ下げ可能な12鍵分の発光キーボードのみが用意されている。BeatStep Proでさらにスマートになったシーケンスコントロールセクションにより、ノブを使ってシーケンスのピッチを設定する以上のことが可能になった。メロディックシーケンサーでは、ノートのベロシティとゲート(ノートの長さ)が設定可能。ドラムシーケンサーでは、そのふたつに加えてドラムの打ち込みをずらすタイミングシフトも設定可能だ。各シーケンサーは最長64ステップになり、長くなったシーケンスでも困らないようにLEDディスプレイがナビゲーションを務めてくれる。シーケンスに新しくフィーチャーされた中で個人的に気に入っているのは、シーケンスのランダマイズ機能だ。この機能ではランダマイズの発生頻度と、ランダマイズが発生した時に変化する値の大きさを設定することが可能だ。シーケンサーごとに独立して設定内容を残しておけるため、例えば、リードパートを激しくコントロールしながら安定したドラムシーケンスを走らせることもできる。 BeatStep Proのシーケンス機能を使ってできることは、初期バージョンに比べると明らかにケタ違いだ。価格面で言えば、接続オプションが追加された同機は十分に値段以上の価値がある。しかし、改善を検討できる点がいくつかある。まずは、パターンのオートセーブ設定を可能にすべきだ。そうすれば、あるパターンから次のパターンに移った時に誤ってそれまでの作業を失わないで済む。さらに、パターン再生を繋ぎ合わせる機能があってもいいだろう。楽曲のシーケンスをBeatStepProだけで完全に組み上げることが可能になる。最後に、複数のステップに設定された値を同時に調整できれば素晴らしい。それにより、例えば、ライブで使用中にシーケンス全体のベロシティを変更できるようになる。全体的に見た時、いくつか細かい点が気になるが、BeatStep Proにお金を払って手に入れるだけの価値が十分にあることは間違いない。
RA