Donnacha Costello - Love From Dust

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  • 『Love From Dust』はDonnacha Costelloによる5年ぶりのアルバムだ。音楽制作を休止し、学業に復帰した期間を経て生まれた作品である。彼は13年間待ち望んだ非常に珍しいシンセサイザー、EMS社のSynthiを目前にして手に入れることができなかった。クラウドファンディングで同シンセサイザーを購入するという試みが上手くいかなかったのだ。しかし、第2希望ながらも傑作シンセを手にするには十分な資金が彼のもとに集まった。Charles Cohen作品の中核を担う機材として、近年、注目を集めているBuchla社のMusic Easelだ。そして、同シンセのみを用いて制作されたのが『Love From Dust』である。 本作の原動力になっているのは反復だ。収録曲は基本的に時間をかけて徐々に変化していく単一ループから成るフォーマットに沿っている。ゆっくりと重みを増していく"Ten Ton"や、至福の旋律を高ピッチで奏でる"Farewell"などは、このフォーマットが非常に素晴らしく機能しているトラックだ。しかし、後者のボトムエンドはCostelloの手法が抱える問題を示唆している。というのも、軽やかな高中域周波数の下部では、メトロノームのようなシンプルなベースラインが重苦しく鳴らされており、他の要素をズルズルと引きずっているのだ。"Klar"では、ループが完全に展開していくことなく、一見、特に目的もなく単に繰り返されているだけのようだ。同トラックの曲長は4分。本作で最も短いにも関わらず、実際よりも長く感じてしまう。 本作のクライマックスは、11分間に及ぶ"Everything Is Going To Be"だ。主旋律はここでも非常にシンプルで、José Gonzálezバージョンの"Heartbeats"から断片を切り取って加工したかのようなサウンドだ。トラックの方向性が最初から明確に示されているため、徐々に歪んでいく展開も驚きではない。最も混沌とする瞬間ですら、トラックの中心を担う旋律が消え去ってしまうことはなく、おびえながら展開しているような印象になることは決してない。『Love From Dust』はすべてワンテイクでレコーディングされており、オーバーダビングは行われていない。"Everything Is Going To Be"を聞いていると、この制作手法が持つ限界に気付くかもしれない。 Costelloによる明快な旋律を使ったアプローチは、リスナーの意識をしっかりと惹き込むにはベーシック過ぎるかもしれない。それはまるで、新たな機材に慣れようとしているミュージシャンが、ちょっと試しながら制作した作品であるかのようだ。『Love From Dust』はアンビエントアルバムとして、もっと際立ったテクスチャーを生むことができたのではないだろうか。作品は旋律に紐付けられ、それ以外のほぼすべての要素は切れ目なくループしながら脇役に徹している。Music Easelで実現可能なことを考えると、『Love From Dust』はその手始めとしてはまずまずだ。しかし、それだけにすぎない。
  • Tracklist
      01. Niigata Moment 02. Ten Ton 03. Asteroid 04. Klar 05. Farewell 06. Everything Is Going To Be 07. Unconditional
RA