FIS - The Blue Quicksand Is Going Now

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  • Oliver Peryman(aka FIS)が2013年にVoid Comsからリリースした『Homologous』は、彼が手掛けた最も奇妙なレコードであり続けている。同レーベルは作品のイデオロギーがPerymanから生まれていることを伝えるにあたって「遥か彼方からやってきた重大な音楽コミュニケーション」と称している。同作品のインスピレーションとなったのはフランス人アーティストのYves Kleinだ。彼は絵画における従来の直線的な見方を「監獄の窓にはめられた鉄格子」になぞらえ、彼の有名な青の陰影は「空虚」(現世的な影響から解き放たれた禅に似た状況)を反映することを意図していた。それとほぼ同様に、Perymanはダンスミュージックを出自としているが、既成概念から抜け出し、異世界のものを追い求めている。そしてその過程において彼は成果を上げることが多い。FIS名義での作品には近年のエレクトロニックミュージックの中で最もオリジナル性の高いものがある。しかし、目立ちたがり屋なYves Kleinとは異なり、Perymanの壮大なアイデアはその野心により崩壊しかねないリスクを負っている。 Perymanは2年前にTri Angleから2枚のEP「Preparations」と「Iterations」(英語サイト)をリリースし、ルーツであるドラム&ベースから緩やかに離れ途方もない領域へと接近を始めた。その展望は果てしなく、メロディは咆哮を上げ、ムードは凄惨としていた。彼のレビューLPとなる『The Blue Quicksand Is Going Now』でもこの方向性が続行されている。もしかすると、ロマンティシズムがさらに素晴らしいFISを引き出している作品かもしれない。最初と最後のトラックは出だし数秒で最大強度を叩き出しており、ディストーションが沸き立つサウンドの海へとリスナーを放り込む。その効果は凄まじいが、収録された9曲に渡ってそうした瞬間が繰り返されるにつれ、インパクトは弱まっていく。本作は基本的にはアンビエントアルバムだが、濃密で混沌としており、作品を通して聞くと疲弊してしまうほどだ。"Ebb"や"Ak"のようなトラックは単体では十分に素晴らしいのだが、コンテクストの中ではそれほど機能していない。 とは言え、実際に不発に終わっているケースはわずかだ。ヒップホップ風の"Social"は腐葉土の中に埋没してしまい、"Frost Pocket"は鋭いビートとガス状の声を混ざり合い騒然としている。しかし、それ以外では喜ばしいサウンドを見つけることができる。例えば、"Happy Alone"でのゴージャスなベルサウンドによる音の洪水や、本作に静寂をもたらす瞬間のひとつである"Sub Larynx"での虫が這うような音などが挙げられる。今回のハイライトは"Pedal"かもしれない。ミュートされたピアノが周囲に広がる暗がりへと送り込まれパーカッシブな渦を巻き起こしている。『The Blue Quicksand Is Going Now』により、Perymanは今にも空虚に陥りそうなスレスレの場所を歩んでいる。彼がバランスを取り続ける限り、彼の音楽はこれからも驚異的であり続けるだろう。
  • Tracklist
      01. The Blue Quicksand Is Going Now 02. Ak 03. Social 04. Happy Alone 05. Pedal 06. Frost Pocket 07. Sub Larynx 08. Ebb 09. Kai
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