Greeen Linez - The Calm

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  • 2012年のデビューアルバム『Things That Fade』と、2014年の『Izu King Street』をDiskotopiaからリリースし、ポップミュージックやジャズなどのフィールドでシンセサイザー等の電子楽器が積極的かつ広範に取り入れ始められた80年代の自由な空気を現代的なフィルターを通して再現したGreeen Linez。エレクトロニックポップバンド、Hong Kong In The 60sのメンバーとして英国で活動するChris Greenbergと、Diskotopiaの設立者であり、現在、東京を拠点に活動する英国人DJ/プロデューサー、A Taut LineことMatt Lyneによるこのプロジェクトは、テクノ、ハウス、ドラム&ベースなど、あらゆる制作スタイルをカバーするだけのプロダクションスキルをもって、自分たちのインスピレーションを自在に具現化してきた。Larry HeardやFuture Sound Of London、Move D、Newworldaquariumといったプロデューサーが描くディープかつ内省的な空気に触発されて制作されたという彼らの最新アルバム『The Calm』においても、情景を喚起させる卓越した表現力により、前作までの流れを引き継ぐ陶酔性と、どこか逃避的で退廃めいたメランコリアが生まれている。 Greeen Linezによる『The Calm』と名付けられた旅は、彼らにとって初のビートレス作品となる”Dreamwalker”からスタートする。包み込むような親密さを持った暖かなニューエイジミュージックから一転、”Asa Mist”では、朝焼けを彩るホーンセクションと柔らかなパッドが作り上げる空間にジャングルビートが飛び込んでくる。適確に打ち込まれるベース音が紡ぎだすマシンファンクにより、トラックが一気に加速していく様は、野外パーティにおける夜明け時の遥かなる恍惚を思わせる。フュージョンジャズの空気を運ぶ”Family Law”、少しつんのめらせたハウスビートに乗せて軽快に仕上げた”Secrets Of Eden”、ディスコ x フュージョンとでも言いたくなる”Clutch”と”Findings”を潜り抜け、アルバムは浮遊感のあるスペーシーな空間を作り上げていく。そして、”Australasia”では、眼前に雄大な大陸が徐々に近づいてくる光景が描かれる。アルバムの後半は、ジャケットに用いられている風景のBGMとして制作されたのではないだろうか。”First Blush”で未知なる世界に辿りつき、ふたつのパートに分かれた”The Calm”にて、潮騒が聞こえる浜辺近くの森を探索しながら、再び高速ビートの乗って夜明けに向けて駆け抜け、”Blue Tomorrow”によってGreeen Linezが描いてきた壮大なサウンドの旅は幕を閉じる。 彼らの方向性は100%Silkを筆頭に語られるチルウェイヴやシンセ・ポップといった言葉で括られることになるのかもしれないが、その参照元として挙げられる80年代のサウンドが未来的志向を持って楽曲を生み出していたのに対し、Greeen Linezは温故知新とも言える回顧的視点をもって、現在、多種多様にジャンル付けされた既成の概念からこぼれおちていくようなサウンドを”ろうと”のように受け止めて、Greeen Linezというフィルターに流し込んでいる。彼らのスタンスと独特のいなたさは、Erdem TunakanとPatrick Pulsingerが率いたウィーンのレーベルCheapの90年代後半における立ち位置を思わせる。現行のいかなるシーンとも一定の距離間を保っているがゆえに、彼らは周囲からの影響を受け過ぎることなく自由な発想のもと音楽に向き合うことを可能にしているのではないだろうか。
  • Tracklist
      1. Dreamwalker 2. Asa Mist 3. Family Law 4. Secrets of Eden 5. Clutch 6. Findings 7. Australasia 8. First Blush 9. The Calm Part 1 10. The Calm Part 2 11. Blue Tomorrow
RA