Dawn Of Midi - Dysnomia

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  • ポップを扱うチェンバージャズ・アンサンブルというアイデアは決して新しくはない。そのアプローチと成功の度合いは、The Bad Plusによるポストモダンなスリルから、ポップ仕立てのEST、Brad Mehldauによるクロスオーバーなカバープロジェクト、マーキュリー賞を獲得したPolar Bearまで、幾多にも及ぶ。多くのアーティストがひしめく領域に遅れて参加することになったドイツのトリオバンドDawn Of Midiだが、結果、彼らの音楽が持つ新鮮さが非常に引き立てられることになっている。彼らに最も近いアーティストはおそらくBrandt Brauer Frickだろう。両者の興味の対象になっているのはテクノだからだ。しかし、Dawn Of Midiは生楽器を用いてエレクトロニックミュージックを制作する行為における固有でキッチュな要因を増幅させている一方で、『Dysnomia』には全くおどけた要素は無く、空想的ですらある。 その理由はおそらく、Dawn Of Midiが回り道をして今回のサウンドに辿り着いたからだろう。ピアニストのAmino BelyamaniやダブルベーシストのIsrani Akaash、そして、ドラマーのQasim Naqviの3人が出会ったのは、Cal Artsで勉強をしていた時のことだ。彼らは2010年に『First』という考え抜かれたフリーインプロヴィゼーションアルバムを発表している。それぞれ、インド、モロッコ、パキスタン出身である彼らは、自身のサウンドが進むことになる方向性にとって母国の伝統音楽はとても重要であることを口にしている。完成までに2年という月日を要した『Dysnomia』は綿密に制作された音楽が47分間に渡って収録されている。本作で、Belyamaniはじっどりとしたピアノの弦と戯れており、コラやアルディーンのような楽器に似たヒプノティックなパターンを弾き出している。ハイハット以外の金物を排したNaqviのドラムのセットアップは、オーク材のような豊かな鳴りを生み出しており、必ずしも現代的なサウンドに関連付けられる訳ではない。眩暈がするまで交差するリズムは、やはりテクノを思わせるが、それはトランス状態を誘発するかなり古い類のリズミカルな音楽だ。 しかし、『Dysnomia』には非常にモダンな面もある。複数の点で、本作は従来のアルバムのようにではなく、ミックス作品としてプレイできると言える。各トラックは次のトラックとシームレスに混ざり合っているが、すべての音楽が生演奏されていることを考えれば驚くべきことだ。そして楽曲の構成はゆっくりと直線的な外郭を築いており、従来のイントロ、メロディ、サビといった形式で展開が生まれることはほとんど無い。上手くペース配分したミックスCDと同様、本作の第1ピークは18分頃にやってくる。"Atlas"で緊張感を溜めこんだパターンが突如として開花するのだ。躍動的な"Nix"のように、いくつかのトラックは単につなぎとして収録されているように感じられる。つまり、リスナーをスムーズに次の展開への促すための彼らなりのDJツールという訳だ。 エレクトロニックミュージックを横断するアーティストを抱えることで知られるレーベル、Erased Tapesが今回のプロジェクトに加担することにしたのも納得だが、『Dysnomia』を格別心地よい作品に仕立てているのは、同レーベルの他作品が陥っている罠にはまっていないからだ。つまり、本作はネオクラシカルの希薄な雰囲気になっていたり、リズムや音色ではなくゆったりとしたメロディを強調し過ぎたりしていないということである。例えばゴシック調の"Moon"のように、そうした方向性を示唆する場面もあるが、本作では最も印象が薄い場面でもある。それ以外の部分に関しては、『Dysnomia』は普通とは違う興奮を提供してくれる。それは紛れもなく身体に訴えかけてくる興奮だ。
  • Tracklist
      01. Io 02. Sinope 03. Atlas 04. Nix 05. Moon 06. Ymir 07. Ijiraq 08. Algol 09. Dysnomia
RA