Charles Cohen - Brother I Prove You Wrong

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  • Charles Cohenによる『Brother I Prove You Wrong』の最後に収められたトラックは"Go Deeper And Listen"と名付けられている。Cohenの他の音楽作品と同様、BuchlaのシンセサイザーMusic Easelで制作された本作は、シンプルな楽曲に聞こえながら、その奥には複雑性が隠されている。楽曲の前面へと旋回しながら現れ、澱みの中へと消えていくアルペジオが、何度も反復しイレギュラーなダンスを踊っている。アルペジオが消えていく度に、リスナーの意識はダークなテクスチャーを持つドローンが奏でる背景音へと深く引きずり込まれる。トラックの長さは4分30秒だが、もっと長く感じられるのだ。 フィラデルフィアに住むCohenは、何十年もかけて自身の没頭的なサウンドスタイルに磨きをかけてきた。本作同様、Rabih BeainiのレーベルであるMorphineから発表された3枚の再発盤LPには70年代と80年代におけるCohenの作品がまとめられている。90年代になり、彼は自身の即興的アプローチはライブパフォーマンスに向いているとの判断からレコーディングをすることを止めている。先の再発盤以来となるレコーディング作品である『Brother I Prove You Wrong』は、Cohenにスポットライトをあてたものだ。実質、彼にとって最も新しい作品となるリリースであり、長年の活動を経たCohenの音楽がかつてなく素晴らしい響きを持っていることを提示する作品だ。 特に印象的なのはCohenが卓上楽器であるMusic Easelから非常に様々なサウンドを生み出していることだ。Buchlaのシンセサイザーそのものは非常に魅力的で、その少しムラのあるトーナリティは他のヴィンテージシンセの魅力とは一線を画す響きだ。しかし、シンセサイズされた鳥のさえずりによる"Cloud Hands"から、ファンキーですらある"Beirut"まで、本作のようにこのシンセサイザーに歌声をあげさせることができるのはCohenをおいて他にはいない。"Sacred Mountain"は頑としてヒプノティックなループ作品としてスタートし、なめらかに"Visitors Of The Sacred Mountain"へと繋がっていく。その間、遠方から聞こえてくる鳥の声で仕上げられたアギーレのようなトロピカルな自然に包まれる。 アルバムの前半はこうした軽やかな内容になっている。後半になると、Cohenはさらなる深みへとリスナーを誘っている。ローエンドの鼓動と鼓膜をくすぐるエフェクトによる"Formation Of Matter"。狂乱のクライマックスが待ち受ける深淵なテクノ"Cold War II"。そして、本作のベストトラック"Mankind And Mannequins"は最も殺伐としており、Cohenのシンセワークがダークに謎めくモノローグを囲んでいる。この組み合わせはRobert Ashleyの"The Park"を彷彿とさせるが、柔らかく日射しに満ちたAshleyの世界に対し、Cohenは地中に空いた深い穴からゆっくりと不安感が上昇する荒涼とした景色を描いている。「After they had explored all the planets and all the stars of the galaxy, they found that they were completely alone (銀河系に広がる全ての惑星/星を探検した後、彼らは自分たちが完全に孤独であることに気付いた)」とナレーターが坦々と語る。おそらくCohen本人の声だろう。「They realised it was up to them to become everything they had imagined possible(彼らが可能だと思っていたものになれるかどうかは、自分たち次第だと悟った)」。『Brother I Prove You Wrong』によって、Cohenは自身のポテンシャルを発揮する以上のことを成し遂げているのだ。
  • Tracklist
      A1. Cloud Hands A2. Sacred Mountain A3. Visitors of the Sacred Mountain B1. The Boy and the Snake Dance C1. Mankind and Mannequins C2. Formation of Matter D1. Beirut D2. Cold War II D3. Go Deeper And Listen
RA