Future Audio Workshop - Circle 2

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  • アイルランドの音楽系ソフトウェア企業Future Audio Workshop(以下FAW)が2008年にオリジナリティに溢れたCircleをリリースした時はかなりの話題となったが、それにはいくつかの理由があった。恐らくその最も大きな理由になったのがフレッシュで革新的なUIで、当時の音楽業界で重用されていたスキュアモーフィックデザインに挑戦するかのような、フラットでミニマルなデザインと明るくハイコントラストなカラーリングが用いられており、ひとつの画面でサウンドを簡単に生み出せるようになっていた。結果、この試みは成功を収め、Circleはオーディオ制作ソフト市場において、他のヒット製品と肩を並べる存在になった。その後数年が経過し、競合ソフトが増えていく中で、フィジカルな製品としてのアップデートを行わないFAWは勢いを失ってしまったのではないかという意見も出ていたのだが、その中で既存ユーザーに対して無料アップデートとしてリリースされたのがCircle 2だ。しかし、既存ユーザーにとっては簡単なアップグレードだった訳だが、新しいユーザー層にとってはどうなのだろうか? 今回、Circleの美しいUIは実はいちからの見直しが行われたため、驚く人もいるかも知れない。この新しいデザインはドイツ『De:Bug』誌のアートディレクターを務めるベルリンのフリーランスデザイナー、Lars Hammerschmidtによるものだ。Retina対応のこのデザインは一見したところでは分かりにくいが非常に重要だ。Hammerschmidt本人はFAWのブログ内のインタビューで自分のアプローチについて語っているが、インターフェイスの直感性の重要性に注目したとしている。その結果、オリジナルよりもまとまりがある分かりやすいデザインとなり、モジュレーションソースのカラーリングにその意図がよく反映されている。オリジナルはブルーとグリーンを基調にしており、時間と共に見分けがつかなくなる感もあったが、今回のCircle 2ではUIに様々な色が用いられている。 Circleのモジュレーションシステムを知らないという人のために説明すると、これはNative InstrumentsのMassiveに似たワークフローを持っている。各モジュレーションソースの左上にはカラーリングされたサークルがついており、これはクリック&ドラッグで各モジュールの空いている小さなサークルに移すことが可能で、モジュレーションがどのコントロールに接続されているのかを示すようになる。右の5つのモジュレータースロット(エンベロープ・LFO・シーケンサーなどを選択可能)の他に、オシレーターとキーボード入力もモジュレーターとして使用できる。オーディオレートのオシレーター経由でのモジュレーターの効果はやや予想不可能なので、モジュレーターソースをインプットスロットでマウスオーバーさせてサウンドを試聴できるのは嬉しい。そのサウンドが気に入った場合は、マウスを離すと自動的に接続される。 このようなCircleのモジュレーションシステムは素晴らしいが、今回のテスト中に改良できる部分をいくつか発見した。まず、現状ではどのモジュレーションもホスト側のオートメーションやMIDI、OSCでは変化させることができないという点だ(マウスだけで可能)。フィルターのエンベロープをシンセ側で変化させたいという人にとってこれは問題になるだろう。また、もうひとつの問題はサスティンペダルをモジュレーターとして使えないという点で、これはキーボードプレイヤーの使用方法を限定することになってしまう。 Circle 2で最も素晴らしい新機能は、カッティングエッジなオシレーターVPSだろう。このオシレーターの名前はVector Phaseshaping Synthesisから取られたもので、2つのサイン波を様々な形で組み合わせることで、幅広いサウンドを生み出すオシレーターだ。これが一般的な加算方式や周波数のモジュレーションアルゴリズムと異なるのは、VPSがサイン波の端と端とで組み合わせているという点だ。よって周波数とサイン波の重なるポイントを変化させることで、たった2つのパラメータの変化だけで膨大な種類のサウンドを生み出せるようになる。FAWは長時間をかけて、VPSを論文として発表した学者数人とこのソフトウェア用にVPSを調整したと言われているが、その努力の甲斐はあったようだ。VPSオシレーターが生み出すサウンドの可能性は、Circleに新たな深みと、他のソフトシンセとは違う特徴を与えている。 Circle 2の他の変更点は、一新されたオーディオエンジンとプリセットシステム、そして2つの新しいエフェクト(バケットディレイとチューブディストーション)だ。2つのエフェクトが追加されたことによってエフェクト数は15に増え、これらはマスターエフェクトとモディファイアに分けられている。テスト中は、デフォルトのデリケートなかかり方を、必要とあれば前面に押し出すこともできた。これによってサウンドを柔らかくしたり、汚したりすることが可能なので、非常に便利だ。当然、クリーンなサウンドが必要ならばいつでもすべてのエフェクトをオフにすることもできる。 今回は最新バージョンの新機能について述べてきたが、覚えておきたいのはCircle 2は基本的にオリジナルの基礎の上に作られているという点だ。それでもフレキシブルなモジュレーション、コントロール可能なランダマイズ、OSC対応、パワフルな4基のオシレーターが楽しめる。簡単に言ってしまえば、オリジナルのCircleが好きならばこのCircle 2も好きだろう。オリジナルのCircleに対していまひとつだと感じていた人や、新しい信頼できるソフトシンセを探している人も、デモ版を試す価値はあるはずだ。 Ratings: Cost: 4.0 Versatility: 4.0 Sound: 4.8 Ease of use: 4.8
RA