Output - Signal

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  • 我々がサウンドに惹かれる大きな要因のひとつは、そのサウンドの変化や動作のキャパシティの大きさだろう。すべての自然音は時間経過と共に変化するが、サウンドが変化せずに持続するのはエレクトロニックサウンドのテクニックを使用した時だけだ。よって、当然の話だが、ミュージシャン、プロデューサー、サウンドデザイナーは常日頃からサウンドを動かす新しい方法を探している。その目的のために開発された最新のソフトウェアインストゥルメントがSignalだ。2013年にプラグインRevをリリースして話題となったOutputが開発した。 SignalはNative InstrumentsのKontakt(または無料のKontakt Player)をホストとするインストゥルメントだ。個別にロードできるプログラムを複数用意する代わりに、包括的なサウンドから選択・エディットするシングルプログラムとなっている。これによってプリセットサウンドの長大なリストに長い時間を費やすことから解放されるのは素晴らしいが、一方で、18GBという大容量は欠点で、SSDドライブを積んでいない人にとってはロード時間が長くかかることになる。 ロードした後のSignalのシステムは以下だ。まず、サウンド生成エンジン2基が備わっており、それぞれSignalのライブラリからサンプルをロードできるようになっている。インストゥルメントタイプをクリックするとウィンドウが立ち上がり、生楽器とシンセで大きくカテゴライズされたサウンドのリストが表示される。2つのサウンドを組み合わせたあとは、それを自由に変化させることができる。ヴォリュームとパンで2つのサウンドソースのバランスを取り、他のパラメーターで更なる変化を加えていく。ヴォリュームとピッチはインターフェイス中央部分でコントロールできる。モジュラーシステムも各エンジンに備わっており、フィルターとエフェクトの設定など、各サウンドソースに接続されているモジュールを表示できる。モジュールをクリックすると、専用のエディットウィンドウが立ち上がる。オーディオソースは多種多様で、クラシックシンセや生楽器などが幅広く用意されている。そして、ここまで説明したほとんど全てにプラグインを追加することができる。 Signalでは、各インストゥルメントにPulse Engineで変化を加えられるという点で他とは異なったアプローチを取っている。Pulse EngineとはSignalの各サウンドソースに加えることが可能なリズミックなサウンドモジュレーションのことだ。現代のプロデューサーがサウンドに動きを加えられる方法をすべてリストアップすれば、かなり長いものになる。多くのプラグインにはアルペジエイターとパターンシーケンサーが備わっており、ほぼすべてのLFOが自分のトラックとシンクして時間的変化を生み出していく。また、サイドチェインを用いれば、ひとつのソースのリズムの要素を他のソースと合成し、ゲートでは更にその変化を明確にすることで、リズム感を浮き立たせることができる。Signalでは選択したサウンドを無限に変化させることが可能なため、このようなすべて(そしてそれ以上)のアプローチが実現できる。しかも、2つのPulse Engineの2つのリズムに対照的なパターンを用意すれば、4種類の異なったリズムが生み出せるということになる。 簡単に理解するためには、ひとつのサウンドとひとつのPulse Engineで見ていくのが良い。ひとつのPulse Engineのメインページでは、リズムのタイプ(Wave・Step・Arp・Loop)を選択するようになっている。このWaveにはLFOが備わっており、Waveを選択した場合は、その隣のアイコンでLFOのスピードを設定するが、クォンタイズ値で選べるようになっているので、ホストのテンポに選択した値でシンクするようになっている。波形のグラフィックの下にはShapeボタンがあり、ここをクリックすれば、膨大な数の波形が表示される。シンセサイザーの場合はごく少数のLFOの波形しか用意されていない場合が多いが、SignalにはSimple、Medium、Complexのサブジャンルに分けられた形で豊富に用意されている。 次はStep(ステップシーケンス)で、とりあえずすぐに使用できる様々なプリセットパターンが用意されており、これらのパターンはSimple、Syncopated、Tripletの3種類に分けられている。しかし、ひとつをクリックすれば、そこから先を簡単にエディットできるのが理解できるので、すぐにカスタマイズして自分だけのパターンが作成できるようになる。次がArp(アルペジエイター)だが、ここまで読んできた人ならば、もうあとは分かるだろう。同じように大量のリストからパターンを選択し、スピードを選択すれば終わりだ。尚、アルペジエイターには様々なモードも用意されており、クラシックなアップ/ダウンやランダムから、やや珍しいモードまでもが揃っている。最後がLoop(ループ)で、これはユーザーが設定した波形範囲を繰り返してリズムを生み出していくので、元のサウンドの範囲を上手く調整すれば、ラディカルなサウンドが生み出せるようになる。こうやって片側のPulse Engineのひとつのサウンドをこのように設定したあとは、隣のふたつ目も設定して、その後で逆側のPulse Engineのサウンドを同じようにふたつ調整していけば良い。 Signalがシングルインストゥルメントであるのには理由がある。各サウンドのために新しいプログラムが立ち上がる代わりに、NIのシンセユーザーにはお馴染みのマトリックスタイプのプリセットの検索方法が用いられている。様々なカテゴリを見ながら、自分の探しているサウンドの特徴を選択すれば、Signalがそれに従ってリストにフィルターをかけて絞り込んでくれるという訳だ。インターフェイスの上部には4つのマクロスライダーが配置されており、これらは主要なパラメーターのグローバルコントロールとして機能する。このパラメーターはプログラムごとに異なっているが、Less/More、Tight/Long、Soft/Sharpなど。ひと目見ればそのスライダーがどんな機能を果たすのかが分かるようなラベルが付けられている。これらのマクロスライダーは複数のパラメーターを同時にコントロールする場合も多いが、Advancedページを開けば、パラメーターの動き方を細かくエディットしたり、変更したりすることが可能だ。Signalはいちから素晴らしいサウンドを作るためにデザインされているインストゥルメントだが、難解さに苦労するようなことはない。 Signalを独自のインストゥルメントとして使うためのもうひとつの手段が包括的なエフェクト群で、これらはメインページ上部のタブから入ることができる。グローバルエフェクトは9種類を組み合わせることが可能で、各エフェクトタイプの下にはパワーボタンが備わっている。オンにしたあとで、各エフェクトのアイコンをクリックすれば、そのパラメーターを変化させることが可能だ。尚、パラメーターの多くはMIDIコントロールメッセージへのアサインも可能になっている。ちなみに各エフェクトのパワーボタンは2個ついており、ふたつのPulse Engineごとのオン・オフが設定できる他、エフェクト類の組み合わせもPulse Engine別に用意してアサインすることが可能だ。ちなみに上部のマクロスライダーをエフェクトのパラメーターへアサインすることも可能だ。 Signalは創造力を刺激するプリセットが備わった自由な発想のパッチと、ユーザーが加えられる様々な変化を上手く組み合わせたインストゥルメントだ。そしてそれよりも重要なのは、驚くようなサウンドが多く備わっていることで、筆者もPulse Engineのテクノロジーを使用しないピュアなサウンドを求めてSignalを頻繁に使用してしまったほどだ。サウンドを変化させるための方法を数多く提供するのがSignalの根本にあるが、アルペジエイターやステップシーケンサーを使わず、汚したり磨いたり組み合わせたりするだけで十分な素晴らしいサウンドが大量に備わっている。とはいえ、自分のサウンドに様々な形でドライブ感を与えたり、動きを与えたり、脈動させたりしたい場合も、Signalはレコメンドできるインストゥルメントだ。 Ratings: Cost: 4.0 Versatility: 4.1 Sound: 4.2 Ease of use: 3.7
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