Kamikaze Space Programme - Stokes Croft

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  • Chris Jarmanと言えば、ドラム&ベースファンにはRaidenの名で知られていると思う。この名義で10年以上もの間活動してきた結果、あまりにもドラム&ベースの制作に慣れてしまった彼は、その環境を自ら壊すべくKamikaze Space Programme(KSP)をスタートさせた。再び手探りの状態に自らの身を置くことで不安定ながらも新鮮な興奮を味わうためだ。レーベルでもジャンルでもそうだが、ひとつの完成形に至る前の、手探りしながら試行錯誤を繰り返している段階では、面白い音楽が生まれることが多い。KSPの始動と同時期に拠点を移したブリストルでは、Jarmanは複数のプロデューサーと一緒に生活をしており、クリエイティブ面で常にポジティブな刺激が溢れる環境を享受している。その点もこのプロジェクトでの活動に多様性を与えていることは想像に難くない。KSPでは前もってサウンドのイメージを決めて制作に取り掛かることが無いため、制作者としての自由度が大きい。強いて作品の共通項を見出すなら、Raiden名義でも感じることのできたテクノ的なテクスチャーを実験的に打ち出していることとでも言えるだろうか。昨年、Luke SlaterのMote Evolverから非4つ打ちテクノを発表したのは嬉しい驚きだったが、今回、オーストラリアのレフトフィールドなエレクトロレーベルTrust(現在はベルリンを拠点にしている)から発表となる「Stokes Croft」でも、レーベルのカラーを反映しつつ、やはり少し奇妙なグルーヴを提示している。 Emikaをボーカルに迎えた”Choke”では、ボトムの効いた重厚なキックがリズムを支えるオルタナティブなアーバンエレクトロだ。エレクトロでお馴染みのザップ音がこうも異なる印象に聞こえるのが面白い。そして個人的ハイライトでもある”Clapper”は、Kowtonが切り拓いたダーティーなエッセンスを擦り込んだグライムテクノの可能性を追及している。マイルドにオーバードライブさせたドラムサウンドが鼓膜を掻き毟る威力絶大のキラートラックだ。90年代のSquarepusherを彷彿とさせるアシッドベースが唸る”HSBC”も同様に歪ませたボトムが特徴的だ。”Cel”は上モノとして使われる綺麗目なサウンドとラフなテクスチャーのリズムとの対比がクセになる。 特定の音楽のフォーマットに沿うことなく、その音楽たらしめる要素を捉えることは、音楽の枠組みを広げることと等しいと思う。本作の場合、それはテクノであり、グライムであり、エレクトロだ。人によってはそれ以外の何かかもしれない。タイトルの「Stokes Croft」はブリストルにある通りの名前で、多様な文化と音楽が混ざり合うシーンの中心地となっている場所だ。特定の形を持たず、変化を恐れることなく自由な在り方を肯定するという意味で、本作はまさにStokes Croftな一枚だ。
  • Tracklist
      A1 Choke (featuring Emika) A2 Clapper B1 Cel B2 HSPC
RA