Trickfinger - Trickfinger

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  • John FruscianteによるTrickfingerのデビューアルバムを聴いていると、繰り返し何度も同じ考えが忍び寄ってくる - 「たぶん前にもこのトラックを聞いたことがある」と。もちろん、そんなはずはない。『Trickfinger』はRed Hot Chili Peppersの元ギタリストにして多才な活躍を見せるアーティスト、Fruscianteによるオリジナル楽曲を収録した新作LPだからだ。一方、本作は完全にハードウェアで構築されたアシッドハウスから成るアルバムでもある。Richard D. JamesによるAFX作品や、さらに言えば、Rephlex作品全般によって、Fruscianteの進む道が形成されているような印象で、彼らの方向性をFruscianteもしっかりとフォローしている。『Trickfinger』には驚きと呼べるようなトラックはほとんど収録されていないのかもしれないが、決してアルバムとしての魅力が無い訳ではない。 このアルバムの8つのトラックはどれもアシッドハウスの根本を覆したりはしていないが、アシッドハウスならではの特質をスタイルとして結び付けている。AFXが不協音を活用するように、そして、Last Step(aka Venetian Snares)のサウンドがループの狂騒に包み込まれているように、Fruscianteもハーモニーと複雑なリズムを使って自身の音楽を特徴付けている。点描画のようなドラムシーケンスと自由に解き放たれる303を用いた"Sain"のようなトラックでは、アシッド気質とも言えるウネウネと捻じれる音の中に新鮮な興奮を見出せる。そして"Rainover"は滑るような複数の拍子を重ね合わせながら迷宮のような7分間を蛇のようにうねるトラックだ。 Fruscianteが機材を限界まで活用すると、彼の紡ぐトリックが生み出すインパクトはさらに持続するようになる。しかし、アシッドハウス的なサウンドを多用し過ぎて逆に効果が薄まっている場面もある。例えば"Exlam"では、冗長なシンセパターン、ブリーピーなサウンド、激しいドラムがそれにあたる。勝気な印象の"Phurip"はクラブ仕様の熱気に満ちたアシッド空間で力強くスウィングしているが、低域をヘビーに効かせたアレンジでトラックがエキサイティングな雰囲気と共に闊歩する様は、Luke Vibertの良作に聞こえなくもない。Fruscianteは強力なマシンファンクを弾き出すこのトラックをほとんど展開させておらず、そのため、大作のラストを締めくくるせっかくの機会を上手く活かせていないように感じられる。しかし、Trickfingerはしっかりとしたアイデアに乏しい訳でも、ハードウェアを巧みに操作できない訳でもない。むしろ、幾度となく制作されてきたアシッドハウスで、このフィールドでは新人とも言えるFruscianteが先人と同等に制作できたことは、エレクトロニックミュージックプロデューサーとしての彼の未来が明るいという兆しだと言える。
  • Tracklist
      01. After Below 02. Before Above 03. Rainover 04. Sain 05. Exlam 06. 85h 07. 4:30 08. Phurip
RA