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  • 注意しておきたいことがある。"Cylinder Avoidance Test"の溝は最後がループになっていることだ。筆者はマシンのザップ音と小刻みなパーカッションによる濃厚空間の中に没頭してしまい、ループ溝だということに気付くまでにどれだけの時間がかかったのか見当もつかない。長時間どっぷりとゾーンに浸りきってしまっていて、ループ溝に気付いた時にはもう笑ってしまうしかなかった。CC Notの巧妙さはパーフェクトに近いループテクノを際限なく聴かせてしまうだけでなく、真剣に音楽を聴く行為を嘲笑っているかのようだ。それにしても、このループは本当に延々と踊っていられる。そして踊っている間は至福と嘲り、そして不安が同時に感じられるのだ。 「自分が本当は何をやっているのか立ち止まって考えたことはあるか?」とは「Geo Fi」に付属しているマニフェストの最後の一文だ。CC Notはベルリンとバンクーバーをルーツに持つ3人組で、本作は彼らが立ち上げたレーベルActing Pressの第1弾であり、彼らにとっても初めてのリリースとなる。レーベルは「精神的にも空間的にも完全かつ包括的に安心できる状態をリスナーが見出し維持し続ける機会を提供する」ことを自らの使命として掲げている。本作は本当の意味でダンスミュージックの既成概念、逃避性、快楽性を解体しているが、そんな能書きなんかより、ただただ聴いていて楽しくなる。「Geo Fi」は今年発表されてきた作品の中で最もスマートなレコードだ。そしてもちろん最も突出した快楽性を持つ1枚であることも間違いない。 "Wearing"はがらんとしている。低域は轟き、高域は甲高いが、その間の帯域はほとんどのサウンドが取り除かれている。そのため、その無空間を繊細なパッドとブレイクビーツが埋め尽くすと、なるほど、そういうことだったのかと全てを悟った気持ちになる。同様のアレンジはAサイドを通じて行われており、痛んだカセットから一部を取り出してきたような微かな存在感のトラックが絞り出されている。おそらく彼らのサウンドはどんな音響システムでもローファイに聞こえるだろうが、その不完全さによって、従来とは異なる豊潤なサウンドへとリスナーを誘っている。つまり、少し潰れたパーカッションが生み出すサイケデリックな揺らぎ、テルミンもしくは低い音質でサンプリングした鳥の鳴き声のような嘆きといったサウンドだ。 前述の"Cylinder Avoidance Test"の罠から脱出した後には、心安らぐアンビエントトラック"Vtro 2.0"が続く。CC Notはトラックを早めに切り上げようとすることは決してないが、"Vtro V 2.0"は本当に尺が長い。オシレーターが小刻みに揺れながら噴出しているものの、トラック自体は全体的にスムーズな仕上がりになっている。典型的に言えば、ダンストラックはビルドアップしてブレイクを迎え再びビルドアップしていくものだが、もし「Geo Fi」を聞いていなければ、オルタナティブなサウンドがこんなにも新鮮に感じられるだなんて思いもしなかっただろう。
  • Tracklist
      A1 Wearing A2 Attribution Link A3 303 IMUX B1 Cylinder Avoidance Test B2 Vtro V 2.0
RA