Future Brown - Future Brown

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  • DIS MagazineのSolomon Chaseは、マッシュルームでトリップ中に実在しない色を思いついたそうだが、その時の体験から名付けられたのが、Future Brownだ。Future Brownは、Fatima Al-Qadiri、Nguzunguru、J-Cushの三者が偏りなく等しく音楽制作に参加するプロジェクトで、ラップやダンスホールの他に、様々なスタイルを高温で融合させ、遠く離れた未来からやって来たディストピアのようなサウンドを形成している。活動初期の頃のFuture Brownは、コンセプト偏重のアートプロジェクトという印象だった。例えば、MoMA PS1での彼らは、バスケットボール選手をフィーチャーし、選手たちの動きをパフォーマンスの一部として取り入れるなどしている。しかし、彼らの音楽がゆっくりと発表され始めると、そんな印象も覆されることになった。まず最初に届けられたのは、"World's Mine"だ。まだまだ荒削りのサウンドではあったが、その1年後に発表された"Wanna Party"で成熟を見せるための下地となったトラックだった。世界的なクラブアンセムとなった"Wanna Party"は、シンプルかつ挑戦的な質問を投げかける。「パーティーしたくないの?」と。"Wanna Party"を収録したシングルによって、Future Brownは高尚な実験音楽家集団としてではなく、ポスト・グローバリゼーション/インターネット時代のパーティーミュージックを制作する存在として、認識されることになった。 『Future Brown』では、"Wanna Party"のアイデアを起点として、彼らは同様のダークな世界観のもと、世界に散らばる様々な地域のサウンドとサブジャンルに取り組んでいる。その多くは、Al-QadiriやNguzunguzuが生み出す彼ら特有のサウンドが土台となっている。静かなシンセサイザー、リバーブで厚みが増したトロピカルなパーカッション、そして、空間に対する感性によって、ゲスト参加したアーティストたちのパフォーマンスが際立つようにトラックが仕上がっている。各3人が持つ個別の音楽バックグラウンドは、水彩絵の具のように混ざり合い、一貫性がありながら、多様なアーティストに対応できるスタイルを創造している。幅広いサウンドが広がる本作には打ってつけだ。 多くのアルバムがコラボレーションで失敗に陥るところを、『Future Brown』は見事に乗り切っている。その理由は、3人が時間をかけて一緒に制作を行うアーティストたちを理解し、しっかりと寄り添っているからだ。それを感じたければ、1曲目、"Room 302"での音の抜き差しを実現する卓越した手法や、ラップと歌を行き来するTinkのパフォーマンスぶり、もしくは、"Vernáculo"でいとも簡単にクンビアを取り込んでいるアレンジを聴いてみてほしい。シカゴの2人組Sicko Mobbをフィーチャーした"Big Homie"に至っては、かなりノリノリかつ歪みまくったトラックで、Sicko Mobb自身のミックステープにも収録されていそうだ。 ゲスト参加したアーティストたちは、本作に一級品のクオリティが生まれることに貢献している。KelelaとIan Isiahの2人はタッグを組んで儚いデュエットを歌い上げ、"Speng"では、Riko Danのパフォーマンスが爆発し、それに負けじと"No Apology"では、ジャマイカのアーティストTimberleeが凶暴に荒れ狂う。Timberlee、3D Na'Tee、Tinkたちによる力強いラップぶりからは、Future Brownが言うところの「みんなが等しく制作に参加できる場」というコンセプトが、しっかりと伝わってくる。本作では、参加しているアーティストの男女比率さえも等しくなっているが、これはラップミュージックでは前例の無かったことではないだろうか。 しかし、Future Brownの音楽性は、常に彼らが望むレベルまで達しているわけではない。"Asbestos"では、"World's Mine"に参加していた3人が再び集まっているが、あの攻撃性は消え去り、薄いインクでファックスされたような弱々しいグライムになってしまっている。他にも"Killing Time"では、方向性が定まっておらず、"Talking Bandz"では、Shawnnaによるけたたましい毒舌が薄っぺらいオケとミスマッチで、彼女を上手く取り込めていない。とは言え、多くのトラックでは、Future Brownの3人が繰り出すビートがゲストアーティストをしっかりサポートし、もしくは、彼らが新たなアイデアを生み出すように挑戦状を叩きつけている。多様なキャスティングに見合うだけの音楽的な幅が各トラックにありながら、ゲストアーティストがいなくとも『Future Brown』という価値ある1つの作品として成立するだけの充実ぶりも感じさせる。彼らの意識が上手く機能している時もあれば、そうでない時もある。しかし、Fatima Al Qadiri、Nguzunguzu、J-Cushの3人は、グローバルな視点を持ち、多くの驚きを含んだ確固たる作品を届けてくれた。そのことに変わりはない。
  • Tracklist
      01. Room 302 02. Talkin Bandz 03. Big Homie 04. No Apology 05. Vernáculo 06. Dangerzone 07. Speng 08. Killing Time 09. MVP 10. Asbestos 11. Wanna Party
RA