Lnrdcroy - Much Less Normal

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  • バンクーバーのプロデューサー、Leonard Campbellの『Much Less Normal』は元々、1080pからカセットテープでリリースされており、同レーベルのサウンドを決定付ける作品となっていた。彼が新レーベルPacific Rhythmから発表した"Sunrise Market (Extended Version)"(英語サイト)によって、知名度がさらに高まっている中、絶好のタイミングでFirecrackerから『Much Less Normal』がヴァイナルで再発される。カセットテープでのオリジナルバージョンは、酩酊したようなゆったりとしたハウストラックによって多くのファンを獲得し、Mood Hutが最近出しているリリースのように、こうしたサウンドを生み出すバンクーバーという街そのものの響きを持つ作品だった。曇天と海、陰鬱と優美を等しく兼ね備えていたのだ。Campbellの楽曲は、着々と打ち寄せる波と共に成長する。それはまるでサウンドとメロディが海岸に洗い流されているかのようだ。 スコットランドのレーベルFirecrackerから再発となる『Much Less Normal』には、最も特色のあったトラック"Sunrise Market"と"Slam City Jam (Mix Assist Mix)"が収録されていない(今思えば、このトラックの激しいブレイクビーツとオルガンのコードは全体から浮いていたと思う)。曲順も変わり、新たに13分のトラック"Kendal In Kalusia"が最後に収録されている。こうした変化を付けることで、Firecrackerは異なる角度からアルバムを聞いてみることを提案しているのだ。そのサウンドは素朴で田園風景を思わせる。リズムは坦々とアレンジされ、朝に起床してコーヒーをすする様な自然な印象が生まれている。 『Much Less Normal』にはクラブ寄りのトラックが収録されているが、今回の曲順では聞き進めるにつれ、ビルドアップしていくようになっている。爽やかな"I Met You On BC Ferries"では、ガラージにインスパイアされたビート上にたっぷりとコードを塗り付け、その後に躍動する"If Sylvia Built A House"では完全にダンスフロアに突き進んでいる。本作で印象的かつ中心的なテクノトラックだ。多くのジャンルを取り入れるCampbellは非常に魅力的で、例えば"Telegraph My Love"では闊歩するディスコなベースラインが使われているし、"Eye Of The Wind"での宇宙感のあるレトロなレイヴサウンドになっている。しかし、どんなアイデアを彼が取り入れようと、常にそこには力の抜けた気楽さがある。 "Kendai In Kalusia"は『Much Less Normal』とは違う場所で制作されたかのような印象だ。無愛想に転がっていくこのトラックには土着的な質感があり、他のトラックに広がる海辺の世界観とは対照的だ。しかし、決して悪いと言っているのでない。オリジナルテープでの曲順では、最もエネルギッシュなトラック"If Sylvia Built A House"を最後に収録してアルバムを締めくくっていたが、今回は、まず"Now I'm In Love"でゆっくりと下降した後、"Kendal In Kalusia"で完全に新たな扉が開かれる、という終わり方になっている。 Campbellは多作なプロデューサーだが、Juno Plusのインタビューで彼は、自身がイベントでプレイする時は毎回、新しい楽曲を作るようにしている、と語っており、既に別のタイトルが1080pからリリースされる予定だ。そこにきて今回の嬉しい再発となる本作。既にオリジナルテープを聞いている人にとって、本作は新たな角度から照らし出される傑作アルバムの違う姿を見る機会となるだろう。そして今回の『Much Less Normal』はオリジナルテープが発表された時とは違い、ヴァイナルというフォーマットになったことで相応しいだけの注目を集めることだろう。
  • Tracklist
      A1 Land, Repair, Refuel A2 Ad In The Paper A3 I Met You On BC Ferries B4 Sphere Of Influence B5 If Sylvia Built A House C6 Eye Of The Wind C7 Telegraph My Love D8 Now I'm In Love D9 Kendal In Kalusia
RA