Rémy Martin presents Rémy:Üsic Feat. Theo Parrish at Air

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  • Theo Parrishは、ここ数年間決して活動を控えていたわけではないが、その基準と比べてみても、2014年は彼にとって多忙な1年だったと言えよう。キーボーディストにAmp Fiddlerをフィーチャーした4人組バンドを率いたライブショウを世界各地で行ったほか、政治色の強い新作『American Intelligence』(2008年の『Sound Sculptures』以来のフルアルバム)を発表するなど、このモーターシティ出身のアーティストは、昨年の音楽シーンのハイライトを語る上で欠かせない存在となった。常に時代の先を行くParrishは、年末を前に、ロンドンのPlastic Peopleで長年務めたレジデンシーを終えることを決めていた。その数ヶ月後、同クラブの閉店が突然発表され、結果として、その他全てのレジデントが図らずも彼の後に続く事となった。 2014年は、世界中が怒りと混乱に溢れた年であった。そしてその感情は、『Americam Intelligence』の作品全体を通しても感じられる。しかし、今回、コニャックの代表的なブランドRémy Martinが日本国内で展開するクラブイベントへの出演と、ジャパンツアーを兼ねて来日したParrishは、おそらくそんなネガティブな1年に別れを告げようとしたのではないだろうか。クラウドの歓声に導かれるようにして、彼は陽気な表情でAirのブースに足を踏み入れた。昨年8月に東京でライブ公演を予定していたが、結局キャンセルとなってしまっていた彼のパフォーマンスにお預けをくらっていた観客たちの間には、Parrishの登場を祝うようなムードが流れていた。 例によって、Parrishは早い時間から朝にかけて、ソウルからジャズ、ヒップホップ、アシッド、テクノまでを織り交ぜたロングセットを披露した。恵比寿Lustでの東京デビューからParrishを見て来た人たちも多くいたであろう満員のクラウドにとって、彼のプレイ内容そのものはサプライズとはならなかったかもしれない。しかし今回は、浮き沈みの表情に富んだ、非常に魅力的なセットであった。シカゴ・アンセム“Mystery of Love”のような大ヒット曲や、ディスコ・クラシック“Let No Man Put Asunder”といった楽曲は、7時間超のプレイの中のハイライトだ。一方、ピークタイムには瞑想的なダウンテンポの4つ打ちがかかっていた(この時間帯は踊るスペースがほとんどなかった為、逆にありがたかったのだが)。ただ、ん?と思うような瞬間も何回かあり、特に、Parrish自身によるアクティビスト的なトラック“Make No War”から、アメリカ人トリオThe Bad Plusによる、”Smells Like Teen Spirit”の浅薄なコンテンポラリー・ジャズ・カバーへの流れには違和感を覚えてしまった。 この日は12月29日ではあったものの、カウントダウンパーティーのような雰囲気さえ感じられる年末の一夜となった。Parrishは『American Intelligence』において、現実逃避的な楽観主義を故意に避けたかもしれないが、この日の彼は、2015年を迎えることを心から喜んでいるように感じられた。
RA