Marco Shuttle - Visione

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  • 2011年の「The Vox Attitude」や今年の「Sing Like A Bird」などMarco Suttleがこれまでに発表してきた12インチの多くは、ダビーにトバしたテクノをダンス・フロアにもたらしてきたが、彼のデビュー・アルバムは全く異なるスタイルで届けられた。背筋の凍るエコーと不穏なノイズで打ち震える『Visione』は、Shuttleのレーベルの名前「Eerie / 不気味な」を体現しており、フロイト的な言葉で表すならば、Uncannyな(馴染みがあるがそれが何か分からない)感覚ということである。それはクラブから遠く引き離された音楽であり、没頭的な音世界の悪夢な一面へと飛びこんでいる。イタリアのDino SabatiniやDonato Dozzyも存在するその世界では、テクスチャーと抽象性が従来のメロディやリズムよりも優先されているのだ。 Shuttleは最近ではDozzyとのコラボレーションAnxurで1枚EPを出しているが、良きパートナーであるDozzyは今回、1曲目のトラック"The Chaos"で登場している。NeelとDozzyによるLP『Voices From The Lake』と同様、サウンドがひねられていき、原型が判別できないほどに変容させられている。しかし、『Voices From The Lake』が瞑想的な静寂を意識に打ち込もうとしていたのに対し、こちらのアルバムではより気味が悪く獰猛な音楽になっている。 Shuttleはファッション業界に携わっていた過去があるのかもしれない。しかしアート界で彼と同じ立場の人がいるとしたら、それはJanet Cardiff & Geoege Bures Millerだろう。がらんとした空間と不安感を煽るディテールが頻繁に用いられる作品を生み出すカナダの2人組だ。"Beyond The Mass"の鉄床戦術的ビートは、Cardiff & MillerがFranz Kafkaの小説In The Penal Colonyにインスピレーションを受けたとされる奇妙な拷問インスタレーションThe Killing Machineを彷彿とさせる。他にも"Buona Visione"のようなトラックはDavid Lynchによる映画『Eraserhead』の音楽を思い起こさせるし、この映画に登場する赤ん坊と同様、『Visione』は心に迫るというよりも恐怖心を与えるものだ。こうしたトラックに勢いを与えているものは実はリズム(しばしば誰かが歯を削っているかのように感じる)なのではなく、ゆっくりと容赦なく強度が高まることによるものだ。例えば"Elephante"ではズタズタに切り裂かれたブラス・アンサンブルが深淵へと引きずり込まれている。 最後のトラックが"The Way Out / 出口"というタイトルなのには理由がある。ここに至るまでに潜り抜けてきた密室的な地下墓地のような世界観を考慮すれば、Oneohtrix Point Neverスタイルのアンビエンスを持つこのトラックは新鮮な空気が流れる神聖な安息に感じられるだろうからだ。
  • Tracklist
      A1 The Chaos... (with Donato Dozzy) A2 And Then... B1 Beyond The Mass B2 Buona Visione C1 Masay Lama C2 Elephante D1 Volts D2 The Way Out
RA