Native Instruments - Rise & Hit

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  • Native Instruments(NI)はエレクトロニック・ミュージックの世界において、ソフトウェアシンセ、プラグイン、またそこに関連するMIDIコントローラー類の数々で名を知られている企業だが、映画用サウンドトラックやサウンドデザイナー用製品もリリースしている。音響デザインが正しく施された空間のサラウンドラウドスピーカーシステムでそのようなサウンドトラックを聴く場合、サウンドのクオリティは優れている必要があり、高いプロダクトバリューが要求される。その意味で、この分野対応の製品群は、ダンスミュージック・プロデューサーたちにとっても優れたリソースとなり得る。また、誰もが使っているMassiveよりもこのようなインストゥルメントを使用する人数が少ないことも考慮すれば、自分の手元に置いておくべき素晴らしいツールと言えるだろう。ビルドアップ系、インパクト系ノイズ、リバースサウンドなどは、楽曲テンションの構築や解放、グルーヴの創出など、ダンスミュージックの制作における様々な局面で非常に便利だ。そして今回紹介するKontakt用インストゥルメントRise & Hitは、非常に便利なクロスオーバーツールとしてのポテンシャルを備えている。 この製品の内容はその製品名にヒントが隠されている。Rise & Hitsは2種類のサウンドが組み込まれており、Rise(ライズ:ビルドアップ系)からHit(ヒット)へと移行する仕様になっている。キーボードの低音側を押さえると、ライズ系のサウンドが立ち上がり、そのままその鍵盤を押さえていれば、ヒットがトリガーされる。キーボードの高音側を押さえると、ヒットだけがトリガーされる。このようなサウンドをコントロールするインターフェイスはシンプルだがパワフルだ。ダンスミュージック・プロデューサーがすぐに扱える便利な機能は、拍数に合わせたライズの時間設定で、曲調が変わる瞬間でヒットを簡単に鳴らすことが可能だ(長さは秒数でも指定できる)。また、4種類のハイクオリティなサンプルをレイヤー状に重ねられる他、各サンプルの長さとレベルの調整も可能だ。これはライズ、ヒット、個々に設定可能で、セットにはなっていない。4250個のサンプルが用意されており、様々なビルドアップやヒットを制作可能なRise & Hitはシンプルなプログラムではなく、非常に高性能なサウンドデザインツールと言える(尚、正常に動作させるには大容量のRAMが必要になる)。 各サンプルにはエフェクトとモジュレーションのセクションが備わっている。パンニング、ピッチ、そして時間軸に連動させた各種動作がコントロールできる。エフェクトには2個のノブが備わっており、ひとつには周波数を変化させるエフェクト類(例えばフィルタースウィープなど)が、もうひとつには、ディストーション、フェイザー、フランジャーなどよりクリエイティブなエフェクト類が大量に内蔵されている。これらのエフェクトはライズの上昇時やヒットの減衰時に変化させることが可能で、その右側にはリバーブやディレイのセンドも備わっている。またクロスフェーダーを使用すれば、ライズからヒットのフェードの具合を設定可能で、ヒットの強さが変えられる。 すべてのサンプルが次に通過することになるマスターセクションにはインサートエフェクトが用意されており、プリセット内蔵の4バンドEQ、数種類が用意されているシンプルなディストーション類、同様にシンプルなコンプレッサー、そしてシンプルなリミッターが用意されている。また各サンプルからセンドで送るリバーブとディレイのリターンも備わっている。リバーブセンドはコンボリューション系へ送られ、ここにはスタンダードなコンボリューション・リバーブの他に、金属製タンクやベルといったリアルな環境のシミュレーションから、奇妙なリバーブまでもが用意されている。通常とは異なり、リターンはマスターのインサートエフェクトを通らず、パラレル接続になっているため、必ずしもリバーブやディレイのテールがミックスに残るわけではない。この仕様はサウンドトラック制作時の便利な機能であるならば話は別だが、デザイン上のミスのように思える。 Rise & Hitには11種類のインストゥルメント・ライブラリが付属している。これは基本的にはあらかじめ加工されたライズ/ヒットのプリセットペアで、サンプル、エフェクト、モジュレーションが丁寧に調整されている。ライズ/ヒットのカテゴライズは難しいはずだが、NIはこの点において良い仕事をしていると言えるだろう。プリセットの大半(及び各サンプル)は非常にドラマティックなため、シネマティックなサウンドを求めているプロデューサーには最適だ。サウンドの多くはダークでエッジが効いており、非常に恐ろしい雰囲気を醸し出せる場合もある。ライブラリによってはストレートな映画向きのものも用意されている。例えば「Percussive」ライブラリには、使いこなせるようになればマイケル・ベイ監督作品の音楽担当も夢ではない、重低音のドラムロールなどが用意されている。「Swoosh」(スウーシュ)ライブラリには、非常にアグレッシブなスウィープサウンドが収録されている。これらはクラブ用トラックのビルドアップで使うにはやや派手すぎるが、長さを短く調整すれば、グルーヴィーなリバースノイズとして機能させることが可能だ。「Lifters」ライブラリでは急速なピッチシフトが用いられており、そのタイトル通りのリフトアップ系サウンドが用意されているが、これは自分の好みに合わせて、おとなしいサウンドに変化させることも可能だ。また「Pure Synth」と「Hybrid Sounds」セクションには、聴き慣れない複雑なサウンドが詰まっており、よく現場で耳にするようなホワイトノイズフィルターを開閉したようなサウンドとはまったく異なる形でビルドアップが構築できるはずだ。またユニークなヒットを探している人のためにも、シャープなシンバル風サウンドや、中域が強調されたショット、低域が強調されたブームなどが用意されている。 ビルドアップとヒット、この2つのサウンド/手法の評価は低い。これはメインストリームで異常なほど数多く使われたのが主な原因だ。ダンスミュージックにおいて、ここまで簡単且つ露骨に恍惚感を生み出せる音楽的要素は無いに等しい。しかし、一方で非常に便利であることは否めない。スタジアム級のEDMだけに限らず、それ以外のトラックにも微妙なテンションや動きを加えられるからだ。Rise & Hitはハイクラスなソフトウェアであり、他人とは違うサウンドが使えるようになる他、トラックのグルーヴをよりダイレクトに支えるサウンドが見つけられるため、制作する度に同じシンバルサンプルやホワイトノイズに手を伸ばしてしまうような人には役立つだろう。 Ratings: Cost: 4/5 Sound: 5/5 Versatility: 4/5 Ease of use: 4.5/5
RA