Roland - AIRA SYSTEM-1

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  • 今回のレビューをもって、2014年現在におけるRolandのAIRAシリーズをすべて紹介することになる。今回紹介するSYSTEM-1がトリを飾ったのは、最後に発売されたというのが大きな理由だが、他の点にも注目する価値がある。この機材はシリーズ唯一の真のプログラマブル・シンセサイザーであると同時に、今後発売される製品にも対応するプラットフォームとしてデザインされている唯一のモデルでもあるからだ。その「今後発売される製品」とは、「プラグアウト」と呼ばれるもので、これはRolandが開発したソフトウェア・インストゥルメントで、SYSTEM-1にロードすればスタンドアローンなシンセサイザーとして使用できる。 今年始めにRoland(US)がHP上で公開したシンセ・クロニクル(Roland Synth Chronicle: 1973-2014)は非常に勉強になるものだったが、あれを見れば、Rolandが1970年代後半から現在までの期間、決してさぼっていた訳ではないということが理解できる。彼らはSH-201、Juno-GI、Jupiter-50/80などを通じて、初期クラシックの復活を目指していたのだ。しかし、これらの機材の多くは、クラシックの型番を継承しているものの、2000年代のRolandのシンセが基本となっていた。その意味で、AIRAシリーズはRolandを本格的に目覚めさせたように思える。何故なら、Rolandはこのシリーズで初めて自分たちのフラッグシップとなったアナログサウンドの再現に真剣に取り組んだからだ。 まず、SYSTEM-1の筐体を見ると、そのレイアウトが70年代後半のデザインから強い影響を受けていることがすぐに分かる。スクリーンがないSYSTEM-1には隠された機能は殆ど存在しない。シグナルフローは初期シンセ群と同様、フロントパネルの左から右の順番に並べられており、まずオシレーター2基からミキサー(ここではノイズとサブオシレーターを加えられる)へ流れ、ミキサー部ではピッチエンベロープによるモジュレーションが加えられるようになっている。次にフィルター(ローパスとハイパス)を通し、アンプへと送られるが、アンプ部にはビットクラッシャーと、どことなく曖昧な機能のトーンコントロールが備わっている。そして最後にエフェクトへ送られ、ここでリバーブとディレイを用いてサウンドを変化させる。個人的にはビットクラッシャーの代わりにディストーションが欲しかったが、ここでは、ヴィンテージな作りをモダンなエッジで補完するというRolandの狙いが優先されている。 SYSTEM-1はヴィンテージスタイルのサウンドエンジニアリングではあるが、この機材がRolandの将来のヴィジョンを示すシンセであることを伝える他の要素も組み込まれている。各コントロールのグリーンのバックライトだけではそのメッセージが十分に伝わらないかも知れないが、クラシックなピッチベンド/モジュレーション・ホイールの欠如を見れば、その意図がしっかりと理解できるだろう。SYSTEM-1ではそれらの代わりに、ダイヤル式電話とコンビネーションロックを組み合わせたかのようなジョグホイールが配置されている。外側のジョグホイールは、通常ピッチベンドとして機能するが、アルペジエイターがオンになっている場合は、スキャッターとして機能する。スキャッターはAIRAシリーズに共通して備わっている機能だが、SYSTEM-1のそれは他のAIRAシリーズとは異なっており、アルペジエイターがオンになっている場合のみオンになる。この場合、外側のホイールがアルペジエイターのレートや他の多くのパラメーターの変化を担うが、どの機能をアサインするか、またどのスキャッターを選ぶかは内側のダイヤルで決定する。有り難いことに、SYSTEM-1では選択したスキャッターがどのパラメーターに影響を与えるかは、対応するノブとフェーダーのバックライトが示してくれる。 バックパネルは一般的なハードウェアシンセと変わらず、1/4インチのステレオアウトプット、MIDIイン/アウト、USB(オーディオ及びMIDI)、そしてヴォリューム及びサスティン/ホールド用の2系統のペダルインプットが備わっているが、一番の驚きはオーディオインプットの欠如だ。スタンドアローンとしてSYSTEM-1を使用する際に、その優れたフィルターとエフェクトに外部オーディオが通されば非常に便利だったはずで、SYSTEM-1が(USB経由で)オーディオインターフェイスとして機能することを考えると、この欠如は一層目立ったものになる。 尚、最新のファームウェア(version 1.1)で、RolandはそのUSBが更に便利になる機能を追加しており、これまでのオーディオ、MIDI、プラグアウトの送受信に加え、SYSTEM-1のプリセットのコンピューター側へのセーブも可能になった。SYSTEM-1本体のプリセットスロットが8個しかないことを考えると、これは便利な追加機能だ。ただし、セーブを行うにはSYSTEM-1の再起動とコンピューター側の操作が必要になるため、現時点ではスタジオ専用の機能と言えるかもしれない。ライブ中にこの作業を行いたい人はいないはずだ。 興味深いのは、SYSTEM-1をプラグアウト VST/AUインストゥルメントと接続すると、プリセットスロットが完全に異なった体験を提供してくれるという点だ。ハードウェア上で使用できるのは依然として8個のプリセットスロットのみなのだが、VST/AUインストゥルメント内のすべてのプリセットをDAWのセッションを終了させることなく、ハードウェア側と任意のタイミングで送受信できるようになる。これは非常にスムースなワークフローを提供してくれるため、Rolandがいつこの機能をSYSTEM-1本体のサウンドエンジンに組み込んでくれるのかという点において期待が膨らむ。 とはいえ、SYSTEM-1はプラグアウトというオプションを考えなくても、十分なシンセに感じられる。直感的なレイアウトと太いサウンドは、ここ20年ほどのRolandの製品群と比較するとかなりの好印象だ。そしてプラグアウト機能を加味すれば、その魅力は更に増してくる。筆者はかなりの時間をSH-101プラグアウトの演奏に費やしたが、このプラグアウトの再現精度は非常に納得のいくものだった(SH-101特有のシーケンサー機能は実装されていないが、この機能も追加されると噂されている)。現時点で筆者がプラグアウトに投資するのを躊躇している唯一の理由は、ハードウェア側へのプラグアウトがRoland専用の規格によって行われているという点だ。Rolandが既存のドライバへ対応してくれれば、全員にとってプラスになるだろう。 Ratings: Cost: 4/5 Sound: 4/5 Versatility: 4/5 Ease of use: 4/5
RA