Tom Ellard - 80s Cheesecake

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  • 70年代後期にTm Ellardを首謀者としてシドニー郊外で出没していた変わり者が出入りを繰り返していたバンド、それがSevered Headsだ。彼らの初期の音楽は激しかったり可愛らしかったり、ディープな奇妙さがあったりと、70年代後期から80年代初期にかけての主流の流れと並行して展開していたオーストラリアの実験音楽シーンを垣間見せるサウンドだ。特にEllardによるテープ・ループの使用はサンプリングを基調とした音楽が80年代から90年代にかけて押し寄せてくることを予見していた。彼のアヴァンギャルド界の無法者ぶりは今でも健在で、スイカを使った音楽を制作したり、電気ストーブでバイナルを燃やしたりしている。 Severed Headsのカタログは半分忘れ去られているようなテープとレコードで埋め尽くされており、再発レーベルにとってはたまらない作品ばかりだ。 Vinyl-On-Demandが2008年にリリースしたボックス・セットが今日までにおいて最もSevered Headsを回顧したタイトルだが、今年に入ってMedical RecordsとDark Entriesが動き出した。Medicalは80年代中期のLP2作品(英語サイト)『Since The Accident』と『City Slab Horror』を再発し、Dark EntriesはSevered Headsの最も知られた曲である"Dead Eyes Opened"のエクステンディッド・バージョンを発表した(英語サイト)Ellard自身はというとこうしたリバイバルの動きに懐疑的なようで、「俺の葬式の時になったら、みんな限定盤の文句を言うんだろ」と最近ツイッターで語っている。 今回の最新LP『The 80s Cheesecake』はもともと2つのカセット作品『80s Cheesecake』と『Snappy Carrion』という1982年にEllardが自身のレーベルTerse Tapesからリリースしたソロ作品をまとめたものだが、この再発の背後にいるのもDark Entriesだ。収録された音楽はBandcampを通じてデジタル音源として長きにわたって入手可能だったが、オリジナルのテープを探し当てるのは至難で、その音楽がアナログ盤としてプレスされることは一度も無かった。 2014年に表面化してきたSevered Heads関連の全再発の中で『The 80s Cheesecake』は最も挑戦的だ。捻じれたテープ・ループ、ラジオとテレビからのサンプリング、ぐちゃぐちゃの電子シグナル、そして原始的なドラムによるリズム、こうした要素によって各トラックが1つに繋ぎ合わされている。さらに魅力的なのが、Ellardは今回の再発という機会を利用し、オリジナル音源をリマスターしただけでなく、80年代初期以来未完となっていた未発表素材を仕上げていることだ。 パリッとした甘さがあるのが"Anthem 82"だ。この普遍的なクオリティはJoy OrbisonによるEssential Mixでも最近提示されていた。"303B The East Is Red"というソング・タイトルはEllardがRolandのTB-303のベースラインを1982年に使用してきたことを思い出させてくれだけでなく、Charanjit Singhと共にアシッド・ハウスの先駆者として彼を位置づけている。"Babies"でのボーカルを一度聞いたら忘れられなくなる。この声は謎の女性によって眠たげに発せられており、Ellardのサンプリングの妙を証明することにもなっている。EBM的な"Hold"や、"Our Work For Love At Home"でのインダストリアル・ノイズ、そして"In Her Hair"における因習的なドラム・トラックといったアイデアを弄んでいるかのようなトラックにおいても同じ仕掛けが用いられている。「奇妙な性質は常に他人を魅了する」とEllardは昨年のRA Exchange(英語サイト)にて語っている。彼は正しい。『The 80s Cheesecake』の音楽はおそらく32年の月日を経ているが、その磁力はかつてないほど強力に感じられるのだ。
  • Tracklist
      01. Anthem 82 02. 303B The East Is Red 03. Big Eats 04. The Ritualistic 05. Babies 06. These Are The Words 07. Word 08. Touch 09. Cross 10. Hold 11. Our Work For Love At Home 12. In Her Hair
RA