Amsterdam Dance Event 2014

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  • Amsterdam Dance Event以上に完ぺきなエレクトロニックミュージックの5日間が、この世に存在するだろうか。Hardwellのようなメインストリームで幅広く人気を集めるアクトから、Mike Servitoのような真のアンダーグラウンドDJまで、ADEは業界内のあらゆる要素を1つの街に集約する。しかし、このイベントにおける最大の強みは、アムステルダムの街そのものだ。約1週間の開催期間中、ダンスミュージックは、自転車と運河の街の一部となる。水曜日から日曜日にかけて昼夜問わず、街では膨大なパーティーが繰り広げられる為、ADEでは自分の行動計画をしっかりと立てること、そして何かを見逃してしまっても仕方が無いと受け入れることが大切である。筆者自身は、全てを少しずつチェックするよりも(この作戦の場合、ダンスフロアの上よりもタクシーの中で過ごす時間の方が長くなってしまう可能性がある)、特に興味をそそられるセットをいくつか厳選することにした。 結果、筆者はDGTL主催の巨大なウェアハウススペースで木曜日を終えることとなった。その日のイベントはLife And Deathの大型ショウケースで、レーベルの重要アーティストであるTale Of UsとDJ Tennisをフィーチャーしていた。しかし、ラインナップの中で最も注目を集めたのはDJ Harveyだった。Life And Deathクルーの中でも、それ以外のアーティストでも、あの巨大ステージに映えるアーティストは彼以外に想像し難い。Harveyが環境適応力に優れているということは最初から分かっていたし、彼はブースを取り囲むネオン管とミラーボールにもとても馴染んでいた。彼は官能的なディスコや壮大なハウス、そして弾むようなビートトラックを織り交ぜてプレイし、そのサウンドは巨大なスペースにしっくりとハマっているかに思えた。しかし、プレイが続くにつれてフロアは見るからに疎らになっていった。筆者はステージの側で見ていたのだが、その時のセットは少しバタついているような印象を受けた。その後、友人がフロア中央部からやってきて、一緒に踊ろうと駆り立てられた。そして中央部へ行ってみると、そこは筆者が体験したADEのダンスフロアのどこよりも盛り上がっていた。客がいくぶん引いたとは言え、Harveyは変わりネタを楽しみにしていた自身のファンの心をしっかりと掴んでいたのだ。筆者は以前、この日以上に無茶苦茶なHarveyのセットを聴いたことがあったが、フェスティバルサイズのアリーナであれほど勇気のあるプレイを聴けることもなかなかないかもしれない。 毎年恒例となっているBreakfast Clubのデイタイムパーティーは土曜日に開催された。ラインナップはアンダーグラウンドハウス、テクノ、ディスコで充実しており、セレクターたちはMelkwegの全3フロアで音の響宴を繰り広げた。Levon Vincentは、全力を発揮するとブースの中で比類なき存在感を放つ男だ。筆者がこのパーティーに参加したのは彼がきっかけであり、実際にそのセットは期待通り素晴らしいものだったが、更にそれを凌いだのがJay Danielだ。筆者がOld Hallに到着した時は、Wild Oatsからリリースされた彼の最新作『Karmatic Equations』のリードトラックである“Royal Dilemma”がかかっていたが、残りの2時間のセットの間で、筆者が知っている曲がかかることはほとんどなかった。(しかし、Moodymann “Shades Of Jae”がかかった時ばかりは、その場にいたクラウド全員が曲中における全てのピークとブレイクを把握している様子で、何ともスリリングな瞬間であった。) 彼のセットは非常に大胆で、ミキシングは見事な程タイト、そして彼は不思議なロジックのもとペース配分しているようで、荒々しいヴォーカルハウスやフューチャリスティックなリズムツールなどを織り交ぜてプレイしていた。2014年に入ってから日本とオーストラリアでデビューギグを行い、ヨーロッパ各地をツアーで回るなど、今やスターDJの1人となったDanielだが、この日のセットはこれぞデトロイトというような印象を受けた。そして間違いなく、筆者が今年のADEで聴いたニューカマーの中でも最高のプレイであった。 土曜の夜はResident AdvisorがTrouwにてパーティーを開催。そこでFour Tetがプレイした時は、クラブとクラウドが最高の一体感を見せた。Trouwがスペシャルである理由の1つに、DJとクラウドの距離が近いことが挙げられる。ブースの後ろに設置されているステージは、しばしばダンスフロアの延長としての役割を果たす。特にメインルームは1つのコミューンのような空間となっており、時にはクラウドがDJに力強いハグをしているような雰囲気が感じられる。そしてこの日のパーティーでは、Kieren Hebdenはその場にいた全員にハグをお返しているようなプレイを披露した。ビッグチューン満載のセットで(Loco Diceによる2006年のヒット曲“El Gallo Negro”は予想外のハイライトだった)、彼はクラウドをグングンと引き付けた。ロウでインダストリアルなスペースでありながら、他のどんな場所で聴くよりも音楽が温かく聴こえるというTrouwの魅力が、この日は存分に発揮されていたように思われる。Four TetのセットをTrouwで聴けるのはこれが最後だという事実が、4時間のハッピーなハウスサウンドにホロ苦い雰囲気を漂わせた。 筆者は翌日の午後、再びTrouwを訪れる予定だった。その日はOmar-SやTalabomanのほか、同クラブのボスOlaf Boswijkを筆頭とするレジデントが大集結というラインナップとなっており、セットタイムはなんと月曜の朝まで組まれていたのだ。しかし、当日開催されていたThe Amsterdam Marathonの影響で、街中を移動するのが通常より困難になっていた。筆者はTrouwに戻るよりも、運河を挟んでアムステルダム中央駅の対岸にある場所で、SlapFunk RecordsとVBX、NativesItが主催していたパーティーに行く方が遥かに楽だった。その場にいた友人からすごくいいパーティーだとテキストメッセージが送られてきたこともあり、筆者もそちらに行くことに決めた。多目的スペースが集まる複合施設の中にある小さなヴェニューTolhuistuinは、筆者が今年のADEで訪れた中でも最もくつろげるスペースであった。ダンスフロアの天井にはネットとクリスマスライトが張り巡らされており、まるでジャングルのど真ん中でプライベートレイブが行われているような感覚に陥った(サウンドシステムに繰り返しトラブルが発生し、更にレイブにいるような気持ちにさせられた。もちろん悪い意味でだ)。The Moleはマッシブでパンチの効いたサウンドのロータリーミキサーを使いこなし、スペーシーなディスコとPanorama Bar系ハウスの中間のような素晴らしいプレイを披露。一方Ryan Elliottは、アップテンポなパーティーチューンの数々からSlapFunkのレコードに繋ぐというセットで筆者を驚かせた。ただ、Mr. Tiesは予想外に残念な内容だった。彼のハウスレコードのセレクションは最高だったが、ミックスが所々乱れていた上に、ハードウェア/DJのハイブリッドセットはあまり良い案ではなかったかもしれない。それでも尚、筆者が完全にガッカリするまでには至らなかった。エレクトロニックミュージックは今もエネルギーに満ち溢れているということ、そしてアムステルダムはエレクトロニックミュージックを聴くのに最高の場所だということを、ADEは筆者に思い出させてくれたのだ。
RA