Red Bull Music Academy presents Senshyu-Raku

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  • エレクトロニックミュージックにとどまらず、音楽に革新をもたらしてきた多くのアーティストを招致。さらに東京ならではの斬新なコンセプトのイベントで創造的な時間をもたらした、Red Bull Music Academy Tokyo。最終夜となるパーティーは、都内でもトップクラスの音響を誇るLIQUIDROOMを会場に、独自のセンスでテクノ・ハウスの開拓者として活躍してきた3人のアーティストを迎え開催された。 LIQUIDROOMの入り口は混み合うことが多いものの、それでも通常のイベントとは違った雰囲気の客層と、醸し出される熱気は格別で、RBMAに対する信頼度の高さ、そして今晩への期待の大きさを感じ取れた。早速メインフロアへと向かうと、土着的なパーカッションとエフェクトが鳴り響く奇妙なシチュエーション。そこから突如、重く鋭いダブレゲエへと展開した。たった一曲のつなぎでPepe Bradockらしさがにじみ出ている。その後もミドルテンポなディスコチューンからスペーシーなジャズまで、あらゆるジャンルを横断。彼の計り知れない世界観の片鱗を伺える貴重なセットが披露された。後半30〜40分で一気に4つ打ちへと展開。Bumblebee Unlimitedのようなサイケデリックなディスコから、今年のフロアヒットの一つ、Seven Davis Jr. “Friends”までもプレイ。メインフロアに溢れんばかりの人が詰めかけている中、自らのペースを崩すことなくDJを完遂していたのは流石だ。 完全にフロアの熱が高まった状態で、Pepeに引き続きCarl Craigが登場。ミニマルなビートで流れを引き継ぎつつ、ざっくりとしたグルーヴ感とサンプルで盛り上げる展開は初期の彼のスタイルを思い起こさせる。選曲自体は、いわゆるデトロイトの王道をそれた、ヨーロピアンな感性を感じさせるようなものだが、初期シカゴハウスやJeff Millsの大名曲“The Bells”がアクセントとなり観衆を大いに沸かせていた。徹頭徹尾、ピークタイムにおける豊富な経験を感じさせるプレイであった。 Carlのドラマティックな展開から一転、Kenny Dixon Jr.の“Shade Of Jae”がよりアーバンなムードをフロアに注ぎ込む。Gerd Jansonの仕業だ。Running Backのオーナーらしい、ニューディスコからオールドスクールなUSディープハウスを網羅した選曲は、言わば踊れるグッドミュージック。大胆なブレイクや展開、歌モノを挟みつつも、勢いを失うことなく展開していく。フロアを読み空気感を操る手腕はこの日の出演者の中でも随一だった。終盤にはハウスの枠を超えた大クラシックCrystal Waters “Gypsy Woman (She's Homeless)”をスピン。クライマックスにふさわしい強烈な楽曲でパーティーを彩っていた。アンコールはLarry Levanが手がけたJoubert Singers “Stand On The wWorld”によって締めくくり、満ち足りた雰囲気の中でパーティーは幕を下ろした。 RBMA Tokyoの最終夜として、ボリューム満点の一夜となったSenshyu-Raku。ライブアクトが中止になるなどの懸念はあったものの、中盤あたりで入場規制がかかるなど(筆者はフロアとバーを往復していたばかりで、具体的な状況はつかめなかったが)、抜群の盛り上がりを記録したようだ。パーティーとしてみると、まとまった一つの流れと言うよりは、DJひとり一人のパワフルさが引っ張っていたような印象も受けたが、ひとつの「お祭り」的な雰囲気作りには一役買っていたとも思う。出演者のいずれもがパーティーの主賓となり得るネームバリューを持ちながら、時間ごとに各々の役割に徹する様はなかなか日本では観られないものだ。(特にPepe Bradockの自らの音楽的構成要素を紐解くようなプレイは、殆どのオーディエンスを置き去りにしていたものの、鮮烈な印象を残してくれた。)やはりこの日を逃しては、二度とないような体験だったのは間違いない。それを所謂「音好き」「クラブ好き」にとどまらず、より間口の広い人々に届けられたのは大きい影響力を持つRBMAだからこそ。一夜限りの快楽ではなく、そこからパーティーの本質と音楽の多様性/自由さを感じ取った人がいるはずだ。この日を含めたRBMA Tokyoの果敢な試みが起点となって、シーンのブレイクスルーとなり得る希望が芽生えることを願いたい。 Photo credits: Yusaku Aoki, Red Bull Content Pool
RA