Unknown 2014

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  • Unknownが愛されているのにはたくさんの理由がある。7000人規模の同イベントでは、小規模のフェスティバルならではの魅力をそこかしこで見つけることができる。行列はほとんどなく、背景には美しい海沿いの景色、そして会場全体がゆったりとした雰囲気に包まれている。一方で、今年のラインナップは相当ビッグなものであったーChic、Disclosure、DJ Harvey、Jamie XX、そしてModeratが一堂に会したのだ。足りなかった要素はたった1つ。それは天気だ。残念ながら、今年はフェスの期間中ずっと雨に見舞われてしまった。 太陽の光が無いクロアチアのフェスティバルなど、ジャムが付いていないドーナッツのような味気のないものに聞こえるかもしれない。しかし、Unknownの音楽と雰囲気は、他ではなかなか体験できないほど素晴らしいものであった。これはもしかしたら、スコットランド人(彼らは他の誰よりも曇り空に慣れている人達だ)が多く参加していたからかもしれない。しかし、悪天候に抵抗しながらも楽しい時間を過ごそうとする意思が参加者達の間にあったのが、何よりの理由であろう。 今年の1番のハイライトはChicだった。“歴代ベスト・パーティー・ソング”をリストアップするとしたら、David Bowieの“Let's Dance”や、Madonnaの“Like A Virgin”、Sister Sledgeの“Lost In Music”が挙げられるだろう。Chicを率いるNile Rodgersは、今挙げた曲の全てを作った人物であり、この他にも数えきれないほどの名曲を生み出している。大衆に人気のあるChicはフェスティバルにはうってつけのアクトだ。そしてRodgers本人は、心底楽しそうにヒット曲の数々を演奏してみせた。実際、Rodgersは自身の名義でも数多くのヒット曲を持っており、クラウドはChicのステージを見る度に、彼がカバーバンドではないことを思い出すのだ。Rodgersが、最近死去した、彼の盟友でありバンドのギターテックであったTerry Brauerへ追悼の意を捧げてSister Sledgeの“I'm Thinking Of You”を演奏した時、彼らのステージには珍しく悲しい雰囲気が漂った。あんなにも楽しげな音楽にこれほど悲しいメッセージを乗せられたのも、Rodgesだからこそ成し得たことなのだろう。 初日の夜は、DJ Harveyもまた最高のパフォーマンスを見せてくれた。ダビーなディスコや陽気なハウスミュージックを操りながら、彼はChicがステージに残した楽しげな雰囲気をそのままキープしていた。しかし、ショウの半ばで雨が降り始めてしまったのだ。翌朝になっても天候は回復に向かわず、どんよりとした霧が会場全体を覆っていた。一時は、その日のプログラムが全て中止になるのではないかと心配されたほどだった。しかし、午後5時頃、幸運にもRAのボートパーティー開始時間の直前というところで、分厚い雲をかき分けて太陽が燦々と輝きだした。また、実はこの日出演を予定していたDJ Kozeが体調を崩してしまい、そのピンチヒッターとして登場したMichael MayerがOptimoとB2Bを披露した。彼らがプレイを始めた時点で、既に素晴らしい結果となることは目に見えていた。変わりダネや数々の海ネタレコードをかけていたOptimoは、ピークタイムにはHues Corporationの“Rock The Boat”を投下した。一方Mayerは、コズミックディスコを違う速度でプレイしたり、Donna Summerの“I Feel Love”やRobin Sの“Show Me Love”といったアンセムをぶっ込んでみたりと、Optimoが作ったマヌケで楽天的なヴァイブを見事にキープしてみせた。 好天はそう長くは続かず、3日目の天気予報も酷いものだった。実際に、大雨の影響で、皆が期待を寄せていたJohn TalabotとJamie XXが出演を予定していたパーティーはキャンセルとなってしまった。お楽しみをお預けにされてしまいヤケクソになった参加者達は、フェスティバルサイトのバーに集まった。二日酔いに頭を抱えた男達は、豪雨の続く外の様子に舌打ちをしながらカードゲームに興じていた。しかし、中には積極性に満ちた参加者もいた。即席のパーティーが何カ所かで始まったほか、筆者が出会った男性はプログラムが中断されていた時間、地元の街で開催中のサルバドール・ダリのエキシビジョンに足を運んだそうだ。ラッキーなことに、午後4時前にはプログラムが再開し、Jamie XXとTalbotはバーエリアでこじんまりとB2Bを繰り広げた。 音楽面のハイライトは、その他にもたくさんあった。Huneeによるレアなソウルや不思議なワールドミュージック、ジャッキンなアシッドハウスのミックスは、その物珍しさに、レイバー達だけではなくオタク達までもが大盛り上がりであった。Ten Wallsが、その週のUKチャートで第3位を獲得した“Walking With Elephants”を演奏した瞬間は、それはもう最高だった。BerghainのレジデントであるRyan Elliotが、いつものシリアスなハウス/テクノではなく、往年の大ヒットアンセムをプレイしたセットもまた素晴らしかった。Disclosure前のウォーミングアップという、正に“Go big or go home(派手にやらないなら家に帰れ)”というような時間帯をまかされた彼のセットには、David Moralesの“Needing U”や、Octave Oneの“Black Water”、そしてBasement Jaxx“Fly Life Xtra”などがフィーチャーされた。 Unknownの成功の秘訣は、おそらく、多くの参加者が物事を深刻に捉えすぎないことに起因しているのだと思う。参加者の間で最も話題となったステージの1つにMedinaが挙げられる。メインステージの隣の小さなエリアで、ここでプレイされるのは大ヒット曲ばかりだ。3日目の夜、筆者が会場内をぶらついていると、安っぽいAdihashのスウェットシャツを着たフェスティバルのスタッフが、熱狂と酒にまみれたクラウドに向けてR Kellyの“Vibe”をプレイしていた。また、このフェスティバルを最も楽しんだ人間はJackmasterだろう。このスコットランド出身のDJは、地元グラスゴーの仲間達にクロアチアのサッカーユニフォームを着せ、自身主催のTweakaholicのボートパーティーを終えた後は一晩中大騒ぎをしていた。筆者は、彼のクルーが他の観客とハイタッチを交わしながら大声でチャントを歌っているのを見かけた(Sister Sledgeの曲に向かって、“We are family! Glasgow, Manchester and Leeds!”と叫んでいた)。Unknownの参加者の多くは、これと似たような行動をしていたように思われる。この自由奔放な雰囲気こそが、フェスティバルを成功に導いたのであろう。
RA