Moiré - Shelter

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  • 昨年のデビュー以来、MoiréはActressの影に隠れてきた。MoiréをWerkdiscと契約させたのはActressだ。エレクトロニック・ミュージックに対するかすんだ見方を両者は共有し、ぼんやりとしたフィルターやモノトーンな色調を好んでいる。しかし、こうした要素をActressはアバンギャルドなサウンドスケープへと解き放っているのに対し、Moiréはダンス・トラックへと要素をまとめ上げている。霧がたち込めるテクノとハウスを収めた強力な2枚のEPに続き、さらに自信に満ちた作品『Shelter』と共にMoiréが帰って来た。不安定な枠組と不明瞭な境界を伴ったクラブ・トラックを構築するのが、彼のやり方だが、本作における45分間の道のりでは、眩さと冗長さが順番に入れ替わっている 『Shelter』には、眩暈のするハウス・トラックが収めされてるが、素材は全て無計画に配置されているように聞こえる。足を引きずっているかのようなキック・ドラムに挿まれながら、幽霊のような声と鋭いサウンドの断片が、力強いメロディ要素に変化しているのだ。1曲目にして、おぞましいトラック"Attitude"のサウンドは、Actressと瓜二つだ。ハイハットとスネアがよろめきながらビートの後ろを付いてきている。以降、Moiréの個性がさらにいい結果になって表れており、"No Gravity"でのベースラインは、まるで低周波で出来た胞子の塊のように、全方向に激しく揺れている。その一方で、"Stars"は合板のようにがっしりと作られたディスコ・トラックだ。ベストなのは、"Elite"と"Hands On"によるワン・ツー・パンチだろう。眠たげに打ち付けられるサウンドがピアノ・ハウスへと変化していくが、このおぞましさと、かすんだ空間が生まれるのは、Moiréのスタジオをおいて他にはない。さらに決定的なキック・ドラムが入ってくることによって、"Hands On"への変化が始まる。このシンプルな変化は、本作で最もエキサイティングな瞬間だ。 一貫して曇り空が広がる世界に存在する『Shelter』だが、エキサイティングという言葉を本作のために用いるのは奇妙な感覚がある。もちろん、エキサイティングな感覚が本作が作り上げる空間のキーとなる役割を果たしているのだが、鬱蒼とした音楽が4つ打ちへと整形される様を耳にする目新しさも、7曲目くらいになると枯れ果ててしまう。加えて、"Dali House"でのGalcher Lustwerkなど、誰か他のアーティストにあまりにも近すぎるサウンドになっている場面もあり、胎児のようなデビュー・アルバムを聞いているかのような気になってくる。奇妙で、ときに幻覚的な要素からダンス・トラックを構築する素晴らしい感性をMoiréが持っているのは確かだが、『Shelter』に関する何かがあまりにも躊躇いを感じさせているのだ。収録トラックをEPにまとめたなら、ほぼ完璧になりそうだし独創的な音楽個性が弾け出そうと、その時を待っているのが感じられる。しかし、Moiréによるデビュー・アルバムは彼の潜在能力を提示するにはいい仕事をしているが、具現化するまでには至っていないようだ。
  • Tracklist
      01. Attitude 02. Dali House feat. Bones 03. Elite 04. Hands On 05. Infinity Shadow 06. No Gravity 07. Stars 08. Rings feat. Charlie Tappin 09. Mr Figure
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