- たとえまだ音楽を聞いていないとしても、『Panorama Bar 06』はOstgut Tonにとって記念碑となるリリースだ。ベルリンのクラブが手がけるミックスCDシリーズの最新作はもはやCDではなく、物理的なフォーマットから、もっと現代的なアイデア、つまりフリー・ダウンロードに移行することを告げている。ライセンスに予算をかけない方針でコンパイルされたElliottのミックスは、フル・クオリティのWAVフォーマットとなっており、DJからの手紙や、トラック情報を記した詳細なデジタル・ブックレットなど高画質のアートには、いつものOstgut Tonらしい小粋なデザインが施されている。そのため、CDフォーマットでのリリースをそれほど惜しむことはないが、さらに重要なのは、新たなコンセプトが先行して、本シリーズの音楽的な水準の高さが損なわれたりしていないということだ。『Panorama Bar 06』は、Nick Höppner(英語サイト)やCassy(英語サイト)のミックスと共に、このシリーズのベスト作品の1つとなるものなのだ。
Elliottはアメリカ人DJ・プロデューサーにして、2007年からBerghain / Panorama Barのレジデントとなっている存在だ。ハウス・オリエンティッドなフロアPanorama Barと、その下の階に広がるテクノ・ダンジョンBerghainのレギュラーを務めることにおいて、彼は突出したものを持っている。『Panorama Bar 06』では、Elliottはディープ・ハウスに焦点をあて、ソウルフルなボーカル・サンプル、キャッチーなキーボード、そして心安らぐ深いベースラインを一緒に投下している。逸脱している要素も少しあるが、非常に柔らかなものだ。Hard House Bantonによる"Reign"は、UKファンキーのスイング感がなければば単純なグルーヴになっていたことだろう。一方で、テネシーのAlex FalkとWill AzadaによるProper Traxクルーが、テクノの力強さによって、タイトにまとめ上げている。(Octave One、Wincent Kunth、Heiko Lauxも同様だ)
Elliottが知られているもう1つの要素は、DJに対する細心のアプローチだ。彼は自身がプレイするトラックを自分用にエディットすることで知られており、今回は、この点を証明する場面はそれほどないものの、彼の手捌きはミックスが持つしなやかな安定感の中に表れている。刺激的な組み合わせも多くあり、Groove Chroniclesの"Your Power's Taking Over"は、Shedによるレトロ風トラック"Power Seat"へと完璧にブレンドされている。イギリスのプロデューサーA Sagittariunによる90年代へのオマージュ作"Conquering Lions"では、ミックスを途中で止め、レイヴィーなコードによる溶岩の流れの中へと飛び込んでいく。終盤の展開が非常に綺麗で、Genius Of Timeの"Tuffa Trummor Med Roasting"でのフリーフォールのようなブレイクは、Nick Höppnerによる土着的なディスコへと吸い込まれており、そして全ては、アンビエントが花開くMarcel Dettmannの"Light"で幕を閉じている。
未発表曲を少し織り交ぜるという従来の方法よりも、もっと実の詰まった贈り物が熱心なファンのために届けられている。なんと10曲もの新たなトラックを収録し、2枚のアナログ盤にて発表しているのだ。Deadbeatの"Whoa"における混沌としたテクノから、The Oliverwho Factoryの"Take It Slow"に漂う控えめなファンクネス、そして、Newworldaquariumの"Thousand Oaks"での消え去っていくシンセまで、新曲がミックスから浮くようなことなく、1つにまとまりあったクオリティに、しっかりとマッチしている。こうした遜色の無い素材をElliottが無償で手に入れることが出来るということは、Ostgutの新たなライセンスのアイデアが強力なものであることを物語っている。
Panorama Barでは、DJセットは少なくとも3時間は続くし、さらに今回、新たなフォーマットが多くの可能性を切り開いているが、Elliottは、長時間プレイの誘惑を避けている。91分。今回のミックスはCDの要領を超えてはいるが、長すぎるわけではない。2006年のシリーズ第1弾となったCassyのミックス以降のどのミックスよりも、長時間営業を喧伝されているクラブのムードを捉えているのは『Panorama Bar 06』なのかもしれない。我々が知っている形でのOstgutのミックスCDシリーズは消え去ってしまったかもしれないが、その最高のクオリティは今も生き続けているのだ。
Tracklist01. Portable - Shadowdancing (Dancecapella)
02. Newworldaquarium – Thousand Oaks
03. Tuff City Kids – Breacher
04. Daniel Jacques – End Of My World
05. JT Donaldson – Mindsmoke
06. Norm Talley – More Powder
07. It's Not Over – Late At Night (VIP Mix)
08. Different Noodles – Banana Resort
09. Alex Falk – BF
10. Makam – Girls Night
11. Octave One – Track 3
12. James Duncan – Shades Of House (A2)
13. Wincent Kunth – Re Entry
14. A Sagittariun – Conquering Lions
15. Deadbeat – Whoa!
16. Hard House Banton – Reign
17. K-HAND – Clap Yo Hands
18. Groove Chronicles – Your Power’s Taking Over
19. Head High – Power Seat
20. Taka Boom featuring Chaka Khan – Groove Like That
21. Mr. Tophat & Art Alfie – House Music
22. Mr G – Womb
23. eLBee BaD – Don’t Wanna Lose Ya Love
24. Bluelite – Enlite
25. Will Azada – Pump That Shit
26. Tronic Pulse – Hit That
27. Heiko Laux – The Bridge
28. Roman Flügel – The Odd Lobster
29. G. Marcell – Breathe (Exhale Mix)
30. Borrowed Identity – Leave Me
31. The Oliverwho Factory – Take It Slow
32. Genius Of Time – Tuffa Trummor Med Röst
33. Nick Höppner – Track For Eb
34. Terrence Dixon – Innocence
35. Marcel Dettmann – Light