Dekmantel Festival 2014

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  • サッカー監督が、良い選手が豊富すぎて悩むという話を聞くことがある。彼らはそんな時いつも、「嬉しい悲鳴だ」と言う。今年のDekmantel Festivalは、参加者をそういったジレンマに陥れるような、素晴らしいアクトで溢れんばかりのラインナップであった。1つ例を挙げてみると、土曜日の午後はThree ChairsにRødhåd、Hessle Audioクルー、そしてRush Hour主宰のAntal、彼ら全員が同じ時間帯にプレイしていた。 4組とも、筆者が本当に見たかったアクトだ。 Dekmantel Festivalは今年で2回目の開催だったが、早くも太鼓判を押してもいいフェスと言えるだろう。会場のアムステルダムセ・ボスは、街の中心地から車で20分ほど離れた場所にある広大な森林公園だ。フェスの会場は綿密にレイアウトされており、RAがホストしたオープンエアのメインステージは大きなテントで天井を覆われていた。さらに、心地良い並木に囲まれた、木製フロアのフォレストステージが3つあった。しかし、何と言っても1番印象的だったのは、比較的ニッチなラインナップであったのにも関わらず、1万人近くもの観客を動員したことだ。Dekmantelは、彼らが過去数年間でアムステルダムに紹介してきた、ハウス、ディスコ、テクノ、エレクトロ、そしてほんの少しのベースミュージックといった音楽と真摯に向き合ってきた。ここは、グロウスティックを振りかざすキッズよりも、The Trilogy TapesのTシャツを着た人を多く見かけるような、そんなフェスティバルなのだ。 金曜の午後はバンクーバーのMood Hutクルーが登場し、フェスティバルは徐々に活気を帯びてきた。 彼らは自身のレーベルの楽曲に加えて、太陽の似合うキラーチューンの数々を投下ー特に、Dimitri From Parisによる“I Wanna Be Your Lover”のエディットがかかった瞬間がハイライトであった。その後、DJ HarveyはRaw Silkの“Do It To The Music”をはじめとする、間違いないディスコアンセムをプレイ。この日の午後と夜は、たった数分間に感じられるほどあっという間に過ぎてしまった。筆者はTalaboman、Prosumer、そしてGerd Janson vs Prins Thomasといったアクトを見たが、彼らのヴァイブを十分に感じるほど、それぞれのステージに長居することはできなかった。メインステージのトリを務めたNicolas Jaarは、スロウなビートやスモーク、ブルーのライティングなどで、劇場のようなセットを演出していた。 土曜日は、激しい嵐がかろうじてフェスティバルの会場から逸れてくれた(本当に危機一髪だったようで、主催側は嵐が直撃した場合、参加者全員を避難させるようにスタンバイしていたのだ)。3つのフォレストステージは、万が一に備え数時間閉鎖されてしまった。結果として、その時間帯にB2Bで登場する予定だったJay DanielとKyle Hallは、彼らのデトロイトの大先輩であるThree Chairsに加わり、総勢6名でセッションすることとなったのだ。どうなったかは想像できるだろうが、素晴らしかったと同時に支離滅裂でもあった。その中でも、DanielがDopplereffektの“Infophysix”をプレイした瞬間や、Marcellus Pittmanによるシックなセット、続くTheo Parrishが、サウンドシステムが壊れてしまうのではないかというほど全力を発揮していたのが印象的だった。 屋内テントでは、Shackletonが彼の最近のプロダクションスタイル(サンプルは以前ほど使わず、よりシンセの音が強く出たテクスチャ豊かなサウンド)を全面に押し出したセットを披露。続いてRødhådがブースに立つとフロアは大きく盛り上がり、2000人もの人間が一斉に、楽しげに足を踏みならしたようなトラックの数々をプレイしてみせた。一方、Selectorステージに登場したMr. Tiesは、彼が主催するパーティーHomopatikのホームでもあるベルリンの://about blankと似たような樹々に囲まれたステージだったこともあり、リラックスした様子であった。 彼が1曲目からぶっ飛んだドラムトラックをプレイすると、フロアからは客が引いてしまったが、そこに残ったクラウドは、今回のフェスティバルの中でも最高のセットのうちの1つを満喫することができた。最後には、Traxxがプレイ中に感極まって涙を流し、彼の頭からは夜の空気に向かって湯気が出ていたほどだった。 日曜日には、Ben UFOがダンスホールからミニマルハウス、ディスコまで、ありとあらゆるジャンルを行き来したが終始控えめなプレイだった一方で、Andrew Weatherallはベースの効いたハウスセットを繰り広げた。フェスティバルの残り時間は、締めにどのアクトを見るのかに悩まされた。メインステージにシルエットが浮かび上がったJeff Millsは強烈な909トラックの数々を投下し、森の中ではOptimoがEQを完ぺきに使いこなしていた。 国外のDJ陣もちろん素晴らしかったが、Dekmantel Festivalがスペシャルなのはローカルセレクター達の力のおかげだ。Young Marcoは日曜日に2回ブースに立った。昼過ぎのセッションではファンクやブギー、バレアリック(James Masonの“Nightgruv”がピークタイムであった) を、そして夕方のBoiler Room Stageではハウスにフォーカスしたセットを繰り広げた。Rush Hour主宰のAntalもまた、フェスティバルのベストアクトの1人だった。 クラシックス(The Other People Placeの“Let Me Be Me”等)を、ダブや、彼がレコード探しの旅で掘り出してきたであろうトロピカルなレコード達と織り交ぜてプレイしてみせた。そしてその他のローカルアーティストーTom TragoやSan Proper、Jameszoo、Melon、Makamーは、この街がいかに才能の宝庫であるかを見せつけてくれた。Dekmantel Festivalは、その主催者だけではなく、アムステルダムの全エレクトロニックミュージック・コミュニティが誇るべき大きな功績である。 Photo credits: DJ Harvey and Shackleton - René Passet
RA