ASC - Truth Be Told

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  • ASCことJames Clementsの2010年のアルバム『Nothing Is Certain』(英語サイト)は、サンディエゴを拠点とするプロデューサーである彼のキャリアに再び活力をもたらしただけではなく、さらに重要なことに、音楽の可能性を探求するという長き道へと彼を導いたものでもあった。今日までの間に、彼はドラム&ベースから移行して、さらに制約のない音楽を制作している。情景的な雰囲気と悲しげなメロディが特徴的なスタイルだ。『Nothing Is Certain』よりもかなり前からちょくちょく興味を示していたアンビエントに対する情熱を再燃させた彼は、ブリティッシュ・コロンビア州のレーベルSilent Seasonとサインを交わし、久々にして3枚目となるアルバムを完成させた。Clementsが今回の作品にあたって新たに名義を使わなかったことは印象的だ。『Truth Be Told』は実にASCらしいサウンドで、構造は崩れ去り、要素はバラバラに分解されている。 Clementsのアンビエント作品には静寂さが存在しており、Silent Seasonが最も関心をよせている自然という概念にマッチするものだ。ここに収録されたトラックは架空の世界で録音したフィールド・レコーディングであるかのようだ。あちらこちらでサウンドがざわめき、遠方では執拗にノイズが鳴らされており、各サウンドには、生態系とでも言えるような入念な構造が含まれている。Clementsはムードを作り上げ、風景を描く達人だ。"Hall Of The Gods"では、ゆっくりとメロディがうなる巨大な空間を想起させる他、吹き抜けるようなトラック"Lucent Vessel"は、ひんやりとした空気を肌に感じることが出来る。 『Truth Be Told』にはフックとなるものが一切なく、アンビエント・ミュージックの伝統的な型にこだわるClementsの姿勢が独自の道を切り開いており、非常に興味深い。6~7分間のトラックを通じて流動的にメロディが解かれていき、編み込まれたタペストリーの模様のように、パターンが柔らかく繰り返されると同時に、トラックを魅力的に仕上げるのに十分な要素がその中には含まれている。悲しげなギターとベースのアレンジによって感情に震える"Behind The Veil"、もしくは、予想だにしていなかったボーカル・トラック"Widening Mire"のように、本作には、感情を明快に表現している場面もある。最後に収録された"The Certainty Of Tides"に限っては、それまでの8曲をそれぞれ重ね合わせたかのようなサウンドで、映画のような壮大なスケールを生み出しているが、ゆっくりと漂うようなそれまでの収録曲を締めくくるものとして、この結末は真っ当に感じられる。 複雑でありながら詰め込みすぎることなく、『Truth Be Told』では多くの異なるアイデアがゆっくりと沸騰している鍋の中に放り込まれている。Clementsはこれまでに自身のポッドキャストにて幅広いスタイルを披露してきており、ポストパンクや80年代のポップ・ミュージックをエレクトロニック・ミュージックとつなぎ合わせているが、Cocteau Twinsのようなグループに対する愛情は『Truth Be Told』でも明らかで、"Some Other Life"でのパッドによるみずみずしいエコー、もしくは、"Machinery Of Light"でのきらめくポストロックのように、絶妙な方法で表現されている。このような細かな要素に意識を傾けることで、本作がただのビートレスの寄せ集めになってしまわないように仕上がっている。『Truth Be Told』は、単なるサウンドトラックなのではなく、リスナーを取り囲む環境そのものなのだ。
  • Tracklist
      01. Some Other Life 02. The Machinery Of Night 03. Half The Words You Say 04. Hall Of The Gods 05. Behind The Veil 06. Lucent Vessel 07. The Widening Mire 08. Slow Autumn 09. The Certainty Of Tides
RA