Liquidroom 10th Anniversary House Of Liquid

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  • 恵比寿の名店Liquidroomの名物パーティーといえば、やはりHouse of Liquidが挙げられるだろう。近年もA Guy Called GeraldやPepe Bradock、Nick the Recordを招致し、個性が光るベテランアクトによる貴重な夜を届けてくれた。そして今回、満を持して登場したのはシカゴ・ゲットーハウスの第一世代であり頂点と言える存在DJ Funk。近年はジューク/フットワークの日本での盛り上がりや、DJ Funkが拠点としていたレーベルDance Maniaの作品がNina KravizやRicardo Villalobosといった人気DJによってピックされ、休止していたレーベルも全盛期のアーティストたちの手によって復活するなど再び脚光を浴びている。DJ Funk自身もDance ManiaからリリースしていたMIXシリーズ『Booty House Anthems』の最新作を昨年末に発表。Ken Ishii、Sinjin Hawkeとの共作の収録といったトピックもあったが、何よりアートワークを含めた、シンプルで無軌道な、衰え知らずの力強い内容が評判を呼んでいた。なのでこのタイミングの来日は、まさに待望のものであったと言えるだろう。 オープンを担当したのはHouse of Liquidのレジデントであり、あらゆるジャンルに精通した選曲と各地での精力的なDJプレイで高い信頼を得ているMoodman。ゲットーハウスクラシックにこだわった選曲と、ラフなグルーヴを保ちつつも正確無比な繋ぎはさすがの一言。フロアに「シカゴ」を形成するようなDJであった。続くTakkyu IshinoはMix CDやラジオでゲットーハウスの認知を広めた功労者とも言える存在だ。この日はマッドでオールドスクールなハウスを中心とした選曲。今の感覚で聴いても不思議と違和感がないのは、ハウスリバイバルとは別に、氏の手腕によるところが大きいだろう。特に声ネタ系のトラック使いでは右に出るものがいないだろう。きらめくジャケットとキャップを身につけ、インパクト満点で登場したDJ Funk。ゲットーハウスの本家らしい荒々しいつなぎとスクラッチ、そしてラップまで繰り出し、凄まじい存在感で押し進むようなDJであった。かつてTheo Parrishが「シカゴのストリートミュージックはハウスだった」と語っている記事を目にしたことがあったが、確かにヒップホップにも通ずるような不良の感覚がある。齢40を過ぎても安定しないやんちゃさ、永遠のBボーイイズムと言える部分も彼の魅力だろう。後半にさしかかったところではRolandの新たなシリーズAiraのTB-3、TR-8で90年代シカゴハウスの名フレーズを演奏する場面も。客に機材が見えるようにツマミを操作するサービス精神には、往年のダンスマニアファンも近年のジュークダンサーも心を射止められていたようだ。 メインフロアのラストは横浜を拠点とする異色のDJユニットLEF!!!CREW!!!だ。映像やステージパフォーマンス、使用されたサンプル含め、破壊的なエネルギーを繰り出していく。節操のなさや雑食性は本家シカゴを超えたかと感じるほどの、ミュータント的なダンスミュージックに触れることができた。上階のKATAではChester BeattyやDJ Shufflemasterなどベテラン勢が豪華共演。中でもDJ Shufflemasterのドラムマシンなどを巧みに操るライブは、ノスタルジーだけではない新鮮なサウンドでオーディエンスを圧倒していた。Liquid Roomは都内でも有数のサウンドクオリティを誇るライブハウスだが、やはり新宿時代から続くクラブミュージックとの親和性はもはや疑いようがないだろう。House of LiquidのレジデントであるMoodman、移転前にはLOOPAというレギュラーパーティーを開催し、現在も年末など重要なイベントに承知されているTakkyu Ishinoは、この日に向けたシカゴ的なセットではあったものの、Liquid Room独特の雰囲気を難なく掴み、舵取りを行っていたのはさすがだと感じた。対してDJ Funkは自らのキャラクターが全面的に押し出され、彼ならではの世界観をどんどん展開していくというセット。続くLEF!!!CREW!!!にも同様の感覚があった。シカゴ・ゲットーというキーワードの中で、各アクトが個性を発揮し幅広い客層を魅了する、箱の許容範囲の大きさが活かされた一夜であった。
RA