El Mahdy Jr - Gasba Grime

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  • 日中は翻訳家としての顔を持つEl Mahdy Jrによる作品は、文化的仲介者としての役割を果たそうとしている。1つは、母国であるアルジェリアと、第2の故郷であるトルコにおける各地に根付いた音楽の仲介、もう1つは、ダブ、ヒップホップ、グライムを含む世界的な広がりをみせるエレクトロニック・ミュージックとの仲介だ。これまで彼の作品は、各地の文化の基盤となっている音楽にフォーカスをあててきた。例えば「Raï Dubs」ではアルジェリアの音楽であるライ、「The Spirit Of Fucked Up Places」ではトルコの音楽であるアラベスクが、これにあたる。彼は、こうした見過ごされてきたスタイルの価値を示そうという意図のもと、サウンドを再構築しているのだ。ヨーロッパに住むものとして、正統な教育を受けていなければ、おそらく、こうした音楽は普段、見過ごされていることだと思う。どちらかと言えば、Muslimgauze以降のヨーロッパ産エレクトロニカから、中東的な要素を喚起させるものを聞いていることの方が多いのではないだろうか。例えば、El Mahdyの最新EPのタイトル・トラック"Gasba Grime"では、おそらくはアルジェリアとチュニジアの伝統楽器のガスバであろうと思われる木管楽器のサウンドを、Visionistのような不思議な響きを持つ悲しげなグライムへとアレンジしている。 中近東の雰囲気を持たせる手法は、これまでにもイギリスのダンス・ミュージックでは定番となっているが、El Mahdyのサンプリングの美学は、そうした表面的なところを飛び越えている。彼が用いる音素材は、シンプルながらも強烈な作品に漂うスモーキーな空気を作り上げているのだ。"Zarga"での静かなドローンと、奇妙で途切れ途切れなビートは、一見、なんともないように見えるのだが、終盤でのサンプリングされたボーカルによって、不意に上昇しようとする気配を見せる。ビートが狂ったように細かく刻まれる"Crack-Addicted Bellydancer"は、フットワークを彷彿とさせ、気持ちの悪い優雅さを伴ったストリングスのサンプルが漂っている。おそらくタイトルであるベリーダンサーは、このサウンドのような動きを見せるのだろう。ゆったりとした"Lost Bridge"に限っては、それほど魅力が感じられない。El Mahdyによるこうした中東様式は、Killing Soundにとって格好のものとなっているようだ。EPのラストに収録された"Lost Bridges"のリミックスにて、薄暗いリバーヴ空間の中から姿を現すVessel、El Kid、Jabuの3人は、パルス音のみによって時を刻んでいる。彼らの作品にほぼ共通していることだが、トラックは状況に応じて、瞑想的、もしくは深く抑圧的に映ることだろう。
  • Tracklist
      01. Zarga 02. Gasba Grime 03. Lost Bridge 04. Crack-Addicted Bellydancer 05. Lost Bridge (Killing Sound Version)
RA