rural 2014

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  • 来場客数を限定したコンパクトかつ質の高い、テクノ系のオープンエア・パーティーのrural。2009年に産声を上げ、近年ではミュンヘンの個性派レーベルPrologueのアーティストをフィーチャーした2011年、Hard WaxのボスでもあるMark ErnestusやLuomoでの活動でも知られるVladislav Delayを呼んだ2012年、DJ PeteやCio D'Or、Rod Hadで話題となった2013年と、日本ではそれほど知名度のないものの、実力のあるアンダーグラウンドなアーティストを積極的に招聘して続けている。そのマニアックなラインナップでテクノ通を唸らせ続け、ruralは年々評判を高めている。 6年目となる今年は7月19日~21日に開催された。会場は新潟県マウンテンパーク津南へと移転。去年までの玉川キャンプ場よりもグッとサイズアップした印象。高台の上に位置する本会場は、新潟県の絶景ポイント100選の1つであり、特にテントサイトからの眺めは抜群……のはずだったが、会場に到着した前夜祭時は横殴りの大雨というあいにくの天候。そこにさらに雷も加わり、天気予報を見れば週末はずっと雨マーク。いったいこの先どうなるやらと一抹の不安を感じたが、19日の昼過ぎに雨は止み、雲から日差しが差し込んでくる奇跡的な展開に。やはり、野外のイベントで雨からの晴天に変わるほど、気分を高揚させてくれるものはない。一面が芝生のテントエリアからは眼下に田園風景を望むという抜群の眺めも相まって、ruralの会場は地獄から天国へと舞い上がったようだった。 rural 2014のステージは2フロアで構成され、メインとなるOpen Air Stageは会場の山頂付近に、Indoor Stageはガラス張りの室内施設に設営された。Open Airは夜に始まり朝方まで、Indoorは48時間ノンストップで各アーティストがプレイした。特にダンス・ミュージック系では、フェス自体の善し悪しを左右するサウンド・システムは、いずれのステージおいてもVoid Acousticを採用。Voidは今年のRainbow Disco ClubのRed Bull Music Academy StageやTaicoclubでもセレクトされた現在話題のスピーカーだ。個性的なルックスに加えて充実した低域と攻撃的な高域に特性があるVoidは、カッティング・エッジなテクノ・ミュージックとの相性は抜群という印象。どちらの会場においてもスピード感のあるサウンドを鳴らしていた。 ここからはrural 2014のアクトを紹介したい。まずはOpen Airの幕開けを飾ったのはruralの常連、Claudio PRC。音が鳴り始めた夕暮れ時はゆっくりとしたテクノ・ビートを鳴らし、Underworld "Two Months Off"がかかったときには、まるで音が自然に溶け込んでいくかのようだった。Positive Centreはライブ・セットにてダークなテクノ・サウンドでフロアを闇へと誘い、続くAbdulla Rashimではよりサウンドもミニマル化しエクスペリメンタルでメタリックなものへと変化し、ruralらしいアングラ感に満ちた雰囲気を醸し出していく。ステージから目を離して夜空を見上げてみると、満天の星空が浮かんでいた。アンダーグラウンド感をイメージしてか、ruralのステージは特にデコレーションもなく暗いため、その分星空がとても見やすい。大自然による星空の演出は、まさにruralが掲げる自然と音楽の融合というテーマにマッチしたロケーションであった。 続いてこの日のメイン・アクト、Black Rainが登場。Black Rainは翌日の目玉でもあるIke YardのStuart Argabrightに加えてShinichi Shimokawaらからなるアンビエント・プロジェクト。コンピューターにシンセサイザー、それにベースとギターというバンド・セットでステージに臨む。Stuartが鳴らすドスの効いたシーケンス・ビートに、Shimokawaの80年代のニューウェーブを想起させる尖ったギターが絡まったサウンドは、こちらの予想を凌ぐアグレッシブで、オーディエンスを完全にロック。そして続くRegisは、ruralのためのスペシャル・ライブセットを披露。彼らしいサディスティックな世界観を存分に演出しながら、ベテランならではの抜群の安定感でオーディエンスをグイグイと煽る。Shaen O'SullivanはDJセットを予定していたが、急遽、モジュラー・シンセとリズム・マシンを駆使したライブ・パフォーマンスへ変更。浮遊感溢れるシンセとタイトなビートを織り交ぜたダンス・セットはrural 2014のベスト・アクトとなった。さすがにこのあたりで一度テントで休息を取り、翌日に備えた。 20日の昼間はIndoor StageにてNEHANのハウス、Wata Igarashiのライブ&DJセットではディープかつ安定感のあるテクノを堪能。再びOpen Air Stageへと戻ると、Samuel Kerridgeに続いて先述した目玉アーティストのIke Yardがステージに登場。彼らは80年代初頭にニューヨークで活躍したノーウェイヴ・バンドで、2010年に再結成を果たし、近年のインダストリアルなどのダンス・ミュージック・サイドから再評価を受けている。そのパフォーマンスは最新作『Nord』をよりインダストリアルに振り切ったような印象で、エレクトリックなノイズ主体とした実験的なサウンドを鳴らしていた。正直、初来日ということもあり、もう少し往年バンド感を彷彿とさせる、クラウト・ロック的なポリリズムも聴いてみたかったので、ちょっと残念だった。日付が21日へと変わるころには、Aoki Takamasaがステージへと立ち、締まりのあるビートを主体に安定感抜群のグルーヴをフロアへ注入。オーディエンスもそれまでのエクスペリメンタルな雰囲気から、ダンスへと一気にシフトした。続くPlasterはトランシーなシンセ・サウンドと硬めのビートで突っ走り、フロアをガンガンと煽る。それに負けじとDJ Skirtもインダストリアル的なテクスチャーを含んだイーブン・キック主体のDJセットで2日目の夜のピーク・タイムを生み出した。そしてラストはDJ Nobu。彼のセットは幾度となく聴いているが本当にハズレが無い。今回はruralらしくメロディのないエクスペリメンタル寄りのテクノ・トラックを容赦なくフロアへ投下。雲一つない約熱の晴天だったため、体力的にもちょっとキツかったが、Nobuのマジックにかかりラストに向かって駆け抜ける。合計3日間に渡る宴は終幕した。 総合的に見ると、会場の立地も良く非常に心地の良く過ごせたパーティーだったと思う。何しろロケーションが素晴らしい。眺望の良さもさることながら、フロアもテントエリアも広々としているので、ストレスなく思いっきり動き回って踊れるし、休むときもしっかりと寝れる。もちろんBBQを楽しむのもOKで、何をするにしてもスペースが充分あるというのが嬉しい。フード・エリアも充実していて、カレー系から和食、エスニックなどよりどりみどり。中でも特に重宝したのはビーガン系のショップPlant Lab.、朝まで踊り明かすと、どうしても前日の酒が残ったりするもの。特に3日間のようなロング・パーティーの場合、ビーガン・フードがあると、とても助かる。フロアのクラウドも多すぎず少なすぎず、ちょうど良いバランスだった。公演中のフロアを見ていると、足でビートを刻みながら笑顔を振りまく人、後ろで音について話し合う人、音に集中して瞑想する人など、それぞれの楽しみ方でruralを堪能している姿が印象に残った。ダンス・ミュージックの楽しみ方をちゃんと知るクラウドが集まった、自由度の高いパーティー、それこそがruralの魅力であり、人気の理由なのだろう。 Photo credits: Ryousuke Asanuma
RA