- 多くのテクノ・アーティストが匿名で活動するようになっているが、Gesloten Cirkelほどふざけているアーティストはそうそういないだろう。謎に包まれたこの名義は、Discogsのページによると「ロシアを拠点にするプロデューサー」とのことだが、彼のSoundCloudでは、南極とマダガスカルの中間に位置する火山列島であるハード島とマクドナルド諸島に居ることになっている。実際のところ、彼はオランダ人だと踏んでいる。Intergalactic FM(英語サイト)でDJをしている他、作品のほとんどはオランダのレーベルから発表されているからだ。この名義はおそらくだが、オランダのDJに関するドキュメンタリー『 When I Sold My Soul To The Machine』(英語サイト)から取ったのではないだろうか。その中でI-Fはメインストリームなカルチャーのことを「gesloten cirkel / 閉ざされた円」だと呼んでいる。
彼のサウンドにもオランダの都市であるハーグらしさがあり、叩きつけるようなエレクトロ風テクノには、ヘビーでありながら遊び心に溢れている。暴力的なドラムや厳めしい雰囲気は、狂ったようなメロディと古くさいSFのサンプルによって相殺されており、タイトル・トラック"Submit X"の場合であれば、鶏の鳴き声がその代役を果たしている。彼にとって初となるアルバムであり、延べ4枚目にあたる作品『Submit X』は、こうしたスタイルをさらに昇華させたようだ。
"Yamagic"や"Twisted Balloon"のように、これまでにGesloten Cirkelが生み出してきた良作と同様、『Submit X』も果てしなくファンキーで、そしてべっとりとしている。Hard Waxはそれを「下水から直送された」ものだと形容していた。しかし本作では、以前にも増して大胆さを増しており、"Arrested Development"は、ヘビー・メタルのリード・ギターが舞い上がっていくサウンドを中心に構築されている。不満げなボーカルと規則正しく刻まれる安っぽいリズムによるトラック"Stakan"のサウンドは、古いダークウェーブの7インチを聞いているかのようだ。文脈からずれている感のある"Chatters"に至っては、インディ・シンセ・バンドBroadcastのものかと勘違いすらされそうである。
こうしたスタイル上の乱雑とした状態にもかかわらず、『Submit X』は徹底してエキサイティングなテクノ作品だと言える。凶暴なリズムは、常にGesloten Cirkelの強みであったし、本作でのビートは、エレクトロのスタイルによるシンコペーションも相まって、それを凌駕する脅威すら感じさせる。例えば"Zombie Machine"や"Vader"、"Arrested Development"といったトラックは、狂犬病の動物のように荒れ狂いながら駆け抜けているし、タイトル・トラックにしてアルバムのアクセントとなっている"Submit X"は、最初の16小節で最もスリリングなテクノのドラム・パターンを展開している。これほどのものはお目にかかったことがない。
こうしたざらついたアレンジに、色彩を加えているのがボーカル・サンプルだ。"Feat Liette"の場合であれば、ロシアの往年のヒット曲のようなサウンドから作られた埃っぽい質感のループが、ズシリとしたアシッド・ハウスのビートと不気味な対になっているし、"Submit X"では「thousand」「X」というロボット・ボイスが絶え間なく繰り返され、がらんとした空洞の中を見事に響き渡り、止むことのないキラー・テクノ・ビートに鮮烈なテクスチャーとメロディを次々ともたらしていく。『Submit X』には多くのものが詰まっている。激しく、同時にキャッチー、そして個性に溢れている。しかし、最も重要なのは、とんでもなくタチの悪いテクノ作品だということだ。
Tracklist01. Zombiemachine Acid
02. Zombiemachine
03. Submit X
04. Stakkapella
05. Stakan
06. Chatters
07. Feat Liette
08. Arrested Development
09. Secret Area
10. Vader