Skrillex - Recess

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  • Skrillexに対して決め付けた態度を取るのはやめようと思っていた。「Scary Monsters And Nice Sprites」(英語サイト)によってBeatportのチャートを席巻してから約4年、アメリカン・ダブステップの広告塔は同時に、EDMにおける悪例として、そして、たまたま世界中で最もフレンドリーな男となった早熟のアーティストとして世間からは捉えられている。SkrillexことSonny Mooreは同世代のアーティストの誰よりもメインストリームに浸透した存在となり、ラッパーと共同制作したり、数え切れないほどのフェスティバルでヘッドライナーを勤めてきた。彼の音楽は時間の経過にあわせて多様性を増していき、ドラム&ベース、ダブステップ、ダンスホール、そしてハウスをバンギンなリズムにまとめ上げている。しかし変わっていないのは金属がこすり付けられるようなサウンドと激しくうなるベースだ。スタジアムにいるオーディエンスがこのサウンドを聞けば、過剰に反応して、他の音をそっちのけにすることだろう。『Recess』はMooreにとって彼の本当の姿がどんなものなのかを示す絶好の機会となるものであり、過去の作品を経て次のステップを示す指標であるのだが、そのサウンドはいまだに未熟なままだ。 案の定、『Recess』はバンギンなダブステップでスタートする。"All Is Fair In Love And Brostep"は相変わらずの10トン級のドラムと金切り声をあげるベースラインを搭載したトラックとなっており、新たなファンを獲得することはないだろう。ジャングル界のベテランRagga Twinsはこのトラック以外にもバウンシーな"Ragga Bomb"にもフィーチャーされており、Mooreのダンスホールへの傾倒とキッズからの信頼を反映している。たとえ、このジャンルに対する彼のアイデアがさらに強固でアグレッシブになっているとしてもだ。ダブステップを虚飾したものというより、こうしたスタイル上の差異こそ、本作を定義するものだと言える。タイトル・トラック"Recess"でのドロップは息が詰まりそうというよりも緩めでパーカッシブだ。一方、"Try It Out"は歯医者のドリルみたいなベースラインが用いられてはいるもののRustieに近しいことをやっており、Diploがアシストした"Dirty Vibe"に至ってはKポップのスターG-Dragonと2NE1で有名なCLをゲスト・ボーカルとするなど詰め込んだ内容だ。 Mooreは昔からトラックにちょっとした盛り上がりを作るところがあるが『Recess』では、その習慣をいたるところで感じることが出来る。例えば、可憐なバラード調の"Stranger"は、ここから盛り上がるぞ、という寸前でテンションが押さえつけられる他、"Ease My Mind"では興奮を抑制しながら常に沸点に達したテンションを保っている。台頭してきたMC、Chance The Rapperとのコラボレーション"Coast Is Clear"では柔らかなシンセによるファンク・トラックを展開しており、見る限りウォブルなベースは一切用いられていない。 しかし、こうした前向きな感想を述べる理由は、本作にそれほど期待していなかったから以外に他ならない。"Coast Is Clear"のようにMooreが控えめなアレンジをしているだけで、ついついすごいと思ってしまいがちだが、そうしたトラックも実は単に適当に作られただけで、リズムとボーカルがしっかりとシンクしていない。このアルバムは特に後半部が精細を欠いており、凡庸な仕上がりの"Doompy Poomp"や、Addison Grooveをアニメっぽくしたような奇妙なトラック"Fuck That"といったトラックのせいで、アルバムは打ちひしがれたようになっている。一番マシだと思うときでも、うんざりするくらいにポップの要素が満載でフェスティバルやラジオでプレイされることを狙っていることが見え見えだ。ドラムはコンプレッサーがかかり過ぎているし、視野の狭いサウンドとアイデアに陥りがちなところがある。一番大きく音がなっているときでも、がっかりするくらいに音が細い。レイブという名の光を放つ巨大宇宙船の中で音を鳴らす人にとっては、それは問題だろう。 Mooreはアルバムの最後に地味めなUKガラージ"Fade Away"を持ってきた。これはBurialのパクリだと大批判された"Leaving"の続編だ。若干あからさまではあるが『Recess』に収録された他曲でのやり過ぎ感に比べれば、Mooreはこういうことをやる方がいい。メジャー指向の耳と野望に対して感心するほど感覚を持つSkrillexはいい曲を作るポテンシャルを持っていそうだ。しかし『Recess』から判断するに、それまでの道のりはかなり長くなるだろう。
  • Tracklist
      01. All Is Fair In Love And Brostep feat. Ragga Twins 02. Recess feat. Kill The Noise, Fatman Scoop and Michael Angelakos 03. Stranger feat. KillaGraham from Milo and Otis and Sam Dew 04. Try It Out (Neon Mix) feat. Alvin Risk 05. Coast Is Clear feat. Chance The Rapper and The Social Experiment 06. Dirty Vibe feat. Diplo, G-Dragon from Big Bang and CL from 2NE1 07. Ragga Bomb feat. Ragga Twins 08. Doompy Poomp 09. Fuck That 10. Ease My Mind with Niki & The Dove 11. Fire Away with Kid Harpoon
RA