Achterbahn D'Amour - Odd Movements

  • Share
  • 押しつぶされたように鳴らされる303サウンドを用いてメランコリーなトラックを発表してきたレーベルAcid Testはシーンの隙間にしっかりと居場所を見い出している。こうしたサウンドを取り入れている存在として最も有名なのはReconditeTin Man(英語サイト)だろう。しかし、その背景にいるのは間違いなくIron CurisとEdit PiafraによるユニットAchterbahn D'Amourだ。他のどのアーティストよりもAcid Testから多くの音楽を発表している彼ら。レゾナンスの効いたシンセ音を用いて、つんのめるテクノやリラックスしたディープハウスを数多く展開しながら、予測不可能な作品を生み出してきた。『Odd Movements』という名前もしっくりくる本作にはこれまでで最も強力な音楽が収められている。 Achterbahn D'Amourは変わった角度から伝統的なアシッド感覚を持つ世界を生み出すことが出来る。"Holy Romance Empire"を例に挙げるならば、軽快なハウス・トラックのようにスタートするものの、そこから劇的なサイファイ・シンセの世界へと変容していき、最終的にはアシッド要素が突如吹き荒れているし、"Teen Sleep"でのチープなドラムや"Jaws Of J.O.Y"での粘つくグルーヴを筆頭とする乾いたサウンドと儚いビートはActressのような異世界サウンド・デザインを彷彿とさせる。そして、こうした伝統から逸脱していくような空間は303というツールによって1つにまとめ上げられているのだ。 『Odd Movements』は様々な要素をカバーしている。水中に居るかのような"Odd Movements"ではリズムという束縛から解き放たれ、リード・シンセが何度も繰り返されながら痙攣発作を起こしていく。一方、クラブ仕様のトラックではトラック的な要素を用いていないにも関わらずグルーブが押し寄せてくる。この点については、全46分間に渡って繰り広げられており、驚くほど優雅だ。本作が持つ多様性にも関わらず均衡の取れた印象に仕上がっているのは、この抑制感によるところが大きいだろう。少なくとも、ツボを押さえたテクノ・リズムが解き放たれる"Konigstr"までは、そうだと言っていい。それに続いて、"Cream & Treacle (I&M)"がアルバム最終地点で待ち構えており、みんなの到着を柔らかく包み込むようにふわふわとした夢心地の世界を展開している。このバランス感覚によって『Odd Movements』は不揃いな印象がありながら同時に精巧に作り上げられた印象を生み出している。的確な場所で的確なひねりが加えられている抑制の効いたテクノ・アルバムだ。
  • Tracklist
      01. Holy Romance Empire 02. Passagen 03. Jaws Of J.O.Y. 04. Ladbroke Culture 05. Odd Movements 06. Teen Sleep 07. My Demands 08. Kongistr 09. Cream & Treacle (I&M)
RA