Pearson Sound - Raindrops

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  • 2013年はPearson SoundことDavid Kennedyにとって模索の年であったように思う。11月にHessle Audioから発表された「HES026」の"Lola"では、複雑な動きを持ついつものリズム構造が新たな視点でのストイック性の中に構築されていた他、"Power Drumsss"に至っては全く違う構造を持っていて衝撃を受けたし、衝撃的に激しいトラックだった。Kennedyの最新作はこれよりも以前、つまり5月に発表された「Rem」にまで遡った内容となっている。音数が抑えられ、何より予想だにしていなかったあのEPだ。今回の7インチの起源はおそらく、ビートレスで原始的な"Figment"、もしくは"Rem"で披露していた点描画法を思わせるシンセのアレンジメントだろう。しかし本作では、こうした引き算の手法は究極にミニマルな結論に至ったようだ。もちろん見事な仕上がりで。 タイトルが物語っているように、"Raindrops"の2つのバージョンは水が滴るようなシンセ・サウンドをフィーチャーしており、時折鳴らされるディレイの効いた波形とヒスノイズによって軽やかなコントラストを作り上げるのみで成り立っている。どちらのバージョンも異なるコードが似たような展開を見せており、同じものでも視点を90度変えることで新たな可能性を見い出そうとしているかのように思える。一見、明るめの印象の"Pt. I"の方が良く聞こえるのだが、両バージョン共に不可思議な模様を作り上げており、じっくりと聞くに値する内容になっている。どちらも2分30秒程度のトラックに含まれるこの微細な感覚は、Kennedyはビートレスのトラックにおける新たな方向性を見い出しているというよりも、これまでの方向性に付け加えるものとしてこのシングルを位置づけていることを示唆している。新たな形を作り上げることの出来る彼の繊細な感性を考慮すると、この点についていささか残念な気持ちにならないでもない。
  • Tracklist
      A Pt. I B Pt. II
RA