EMAF TOKYO 2013

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  • Red Bull Music Academyによる、エレクトロニックミュージックの最先端を集約したイベントEMAF TOKYOが二日間に渡って開催。黎明期から活躍するベテランから近年頭角を表してきた新鋭まで、幅広いアーティストが恵比寿LIQUIDROOMに集結した。会場に到着し早速フロアへと向かうとAOKI takamasaが登壇。近年のテクノ的な方向性を押し進めた、ボイスサンプルなどが一切入らない、サウンドに特化したライブであった。Hisaki Itoによる映像は、音に反応し明滅する美しく力強い光の帯がAOKI氏の繰り出すグルーヴを的確に視覚化していた。 2階ではLiquid LoftとKATAの二カ所にサウンドシステムを設置、隣接したTime Out Caféなどでリラックスしながら日本のエレクトロニックミュージックの将来を担うアーティストと映像作家によるパフォーマンスを楽しむことが出来た。その中でも白眉だったのがYoshi Horikawa。鋭く磨かれた跳ねたダビーなビートダウン。環境音を利用したサウンドメイクが印象的だった。メインフロアへ戻るとMike Paradinas aka µ-Ziqによる歪なまでにメロディアスでエモーショナルな上物と、奇妙なベースミュージック的ビートが聴こえてきた。彼らしい目まぐるしい展開と、変拍子やズレのあるグルーヴが混沌とした世界観を生み出していた。デビュー当時からのIDM的な要素も感じられ、時代の先を行く姿勢と彼の変わらぬ音楽性のふたつを味わうことが出来た。 この日のPAはリズムやメロディが霞むほど大音量の高域とベースが特徴的。セットが切り替わるあいだはDJ Yogurtがプレイ。煌めくハウス/テクノからベースミュージックまで幅広い選曲を披露していた。一日目のラストを飾るのはDIAMOND VERSION。世界を代表する音響系レーベルraster-notonの首領であるCarsten NicolaiとOlaf Benderによるユニットだ。そのサウンドは非常にハイファイでダンサブルなもので、ステージ上の本人もビートに乗りながら演奏。後半からは伊東篤弘と彼の操る自作楽器オプトロンとのセッション。ギターのような轟音からリズミカルなノイズまで、蛍光灯が奏でているとは思えないほどバリエーション豊かなサウンドを奏で、フロアを熱狂させた。興奮冷めやらぬオーディエンスに向け、アンコールでは日本へのメッセージが込められた楽曲“No Nukes”で締めくくった。 (C) Red Bull Content Pool 一転してFenneszはノイズの海だが穏やかさを感じさせるサウンド。激しいディストーションギターのノイズと美しいシンセパッドのコントラストは、耳を奪われずにはいられないものであった。EMAF 2013のラストを飾ったのはヤン富田氏。登場して早々、サイケデリック運動の概要を説明し始めた。サイケデリックは薬剤を用いたが、そうではなく音楽のみで意識の拡大を図るというコンセプトを語ると、M.C. BOOを被験者として招き、脳波による音を主軸に様々なサウンドを鳴らし始めた。難解な音楽を聴く観衆を和ます、ウィットに富んだMCを交えながら進行。ヤン富田氏の長年の相棒SERGEモジュラーシンセと宇宙船の計器のようなBuchlaシンセ、そして氏の音楽を司る謎のオリジナル音響装置の数々…それらを用いて奏でられる音楽は最新鋭の実験でありながらとびきりポップ。意識の内面の広大な宇宙へと旅立てる素晴らしい体験であった。 LIQUIDROOMの国内最高峰とも言える音の鳴りは、幅広いアーティスト達のポテンシャルを余すところなく引き出し、ベストに近いパフォーマンスを楽しめた。両日ともに多くの人が来場し、特にメインフロアは熱狂的な音楽ファンで埋まり、エレクトロニックミュージックへの興味の高まりを実感できた。しかしその一方で、エレクトロニックミュージックとダンスミュージックのリスナーの間には隔たりがあるとも感じた。グルーヴのある音楽でも踊っている人は多くてフロアの半分ぐらいという状況であったし、ほとんどの人がリキッドルーム2階TimeOut Caféにて行われたDJ Sprinklesによるアフターアワーズに立ち寄らなかったようで、その現状は少しもったいないと思う。国内外最高峰の電子音楽を一カ所で集中して体験することが出来る、これまでに無いほど濃厚な二日間であった。
RA