- Native Instruments社のiOSアプリ『Traktor DJ』は間違いなくヒットだ。現在iTunesのミュージックアプリの1位であり、賞賛の声も多い。最初に登場した2月、我々はNI社のiOS系DJアプリの世界への参入に心躍ったものだ。
ところがそういった流れは来ているものの、iPadやiPhoneを使ったDJプレイというのはまだそこまで魅力的じゃないのが現状だ。モニタリングのためのヘッドフォン・スプリッターを使用したミキシングは不便だし、EQ、エフェクトやフィルターを操作するための様々なウィンドウの扱いに慣れるまで多少は時間がかかる。こういったことから、多くのDJにとってiOS版『Traktor』はプレイの準備や遊びで使うためのものになっていた。しかし、NI社はどうやらそのイメージを覆そうとしているらしい。今月発表したTraktor Kontrol Z1という新コントローラーで、『Traktor DJ』をDJの遊び道具からクラブDJのツールへと昇格を試みたのだ。
Z1は『Traktor DJ』の最も重要な機能を抽出し、Traktor KontrolシリーズのF1やX1と同じフォルムに落とし込んだ強力な製品だ。そして２チャンネルのスタンダードなDJミキサーのレイアウトが採用されたZ1は、この3つの中でも最もDJにとって親しみのあるデザインだ。それぞれのチャンネルにスリーバンドEQ、ゲイン、ボリューム、フィルター／エフェクターのツマミが付いており（光るオン／オフボタン付き）、真ん中にはクロスフェーダー、メインとキューのボリュームやキューミックスを操るツマミ、そして両チャンネルのキュー用ボタンが装備されている。そして、どちらのチャンネルにも-30~+6 dBのダイナミックレンジを誇るLEDメーターがある。
Z1はiPad/iPhone/iPodに対応しており、30ピンのiOS機器全てとUSB経由で、Camera Connection Kit無しで接続することができる（iPhone 5やiPad 4ユーザーは、別売りのライトニングケーブルでZ1とコネクトすることが可能だ）。いったん接続したら、まず2つのことに気づくだろう。1つは、Z1がiOSデバイスをチャージしてくれることだ。バッテリーの残量を気にせずDJプレイに集中できることはありがたい。次に、ポップアップウィンドウが開き、Z1がTraktor DJをコントロールすることを許可するかどうか訊かれる。はいを押せば自動的にTraktor DJが立ち上がり、すぐにZ1を使える状態になっているのだ。ありがたいことに、MIDIマッピングやコントローラーのレイアウトを弄る必要はない。
さらに、Z1は4チャンネルのオーディオインターフェイスを内蔵している。ステレオRCA出力が後ろに、ステレオ1/8インチヘッドフォン・ジャックがフロントパネルにあり、接続の仕方はDJにはおなじみだ。出力はメインボリュームとキューのツマミで操作でき、iOSデバイスに接続したら自動的にコンフィグレーションを行う。これはつまり、iPadやiPhoneに接続するだけですぐにZ1が使えるということであり(こういったプラットフォームでは珍しいこと)、すぐにTraktorのEQ、ゲイン、メーターリング、フィルターリング、そしてキューイングなどが操作できるのだ。
さらに、同じようにセットアップなしでパソコンのTraktor Proでもすぐに使うことができ、他のKontrolシリーズのコントローラーと併用することが可能であることを考えると、Z1のデメリットを見つけることのほうが難しい。とはいえ、追加が望まれる機能はある。例えばコントローラーから直接トラックをブラウズ／ロードする機能、そしてデックトランスポート（プレイ、キュー）の操作など。こういった機能がサポートされていたら、iPadとZ1を交互に操作する必要性を減らすことができただろう。更に、このコンパクトなサイズと持ち運びやすさを考えると、パワーケーブルだけではなくバッテリーで駆動できたら良かった。
それでも全体的に見てTraktor Kontrol Z1は良いトコだらけだ。元々iPadの『Traktor DJ』は素晴らしいアプリだが、高い操作性を誇るZ1の登場でいよいよ『Traktor DJ』が現場で活躍する時が来たのではないだろうか。LEDのボリュームメーター、ヘッドフォン用アウトプット、そして同時にEQやフィルターが操作できること（Z1無しではできないこと）で、Z1はより深いDJプレイを可能にする。泣いても笑っても、今後DJブースでiPadを見る機会は増えるだろう。そしてそれは、高い確率でZ１にコネクトしているはずだ。
Ratings:
Cost: 5/5
Versatility: 4/5
Sound: 5/5
Ease of use: 5/5