ENA - Bilateral

  • Share
  • 最初にこの日本人プロデューサーENAの存在を知ったとき、私が感じたのは彼は最も未来的なドラムンベースの作り手だということだ(もし、そんなものがあればの話だが)。彼はそれからダブステップのテンポへとスローダウンすることになるのだが、それは所謂ダブステップという枠組みにはどこか収まらないものだった。このデビュー・フルレングスにおいてENAはさまざまなジャンルを横断することを止め、彼のキャリアでももっとも奇妙なマテリアルを作り上げた。ハウスやテクノ、ベースミュージック的な低音への偏愛を織り交ぜ、彼はそれまで少しずつ見せてきた才能の片鱗をついにはっきりとしたかたちでまとめあげたのだ。 宇宙空間に浮かんでいる時に鳴っているサウンドを想像するとき、この『Bilateral』はまさにぴったりのサウンドだ。それはときに息をのむような美しさで迫り、ときに孤独感を感じさせる。それは、ENAのトラックのほとんどがキレのあるドラムとあとは1つか2つのメロディ的エレメントで構成されていることと無縁ではないはずだ。だが、それ以上にこのアルバムが優れている点はENAがそれまでにない方法でさまざまなエレメントを混ぜ合わせているということなのだ。"Idle Moments"と"Inutility"は共にダブ的な要素が導入されているが、前者が波打つような重量感をトラックの基盤とバランスさせているのに対し、後者ではサブウーファーが震動して軋みを立てるかのようだ。ナーヴァスに疾走する"Triple Heads"ではENAの最も謎めいた一面が窺える。 その宇宙的な視点と同時に、ENAはダンスフロアーへの視点も持ち合わせている。アルバム冒頭はまるで離陸直前の滑走を連想させ、"Community Space"ではガラージ的な要素を豊かに含んでいる。"Symbiot"の終盤では磁気を帯びたドローンから抜け出したハウスグルーヴが短距離走のごとく疾走する。Bilateralの魅力はその神秘性を帯びながらも親しみやすいサウンドなのだが、それはサウンドそのものの厳粛さによるものでもある。 また、このアルバムは比較的ゆったりとしたペースであるようにも感じられるだろう。聴きやすいアルバムにすることを優先してか、以前RA podcastで彼が聴かせた性急なスリルはここでは引っ込められている。それ自体はまったく納得のいくトレードオフ関係と言うべきなのだが、そのアーティストらしさという点ではやや馴染みにくいかもしれない。すべての瞬間が必ずしもスリルに満ちたものではないにせよ、これほど引き締まったビーツを作れるアーティストはそういないであろうことは確かだ。
  • Tracklist
      01. Intro 02. Community Space 03. Mule Moth 04. Symbiot 05. Realization 06. Idle Moments 07. 86 Loop 08. Triple Heads 09. Inutility 10. Unplug 11. Ourselves 12. Double Meaning
RA