Ableton - Push

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  • 私は10年程前からAbleton Live専用のコントローラーが作られるべきだと思っていた。当時のAbletonはLive 4で、また、グリッドベースのコントローラーがありきたりの存在になる前だったため、プロデューサーたちはEvolution UC33のようなMIDIコントローラーを使って数多くのクリップやシーンをトリガーしなければならなかった。その後、Akai APC40やNovation Launchpadのような、AbletonのスクリプトエンジンPythonに合わせて開発された新しいデバイスによって制作は簡易化され、ナビゲーションやセッション全体のコントロール性は飛躍的に向上した。しかし、このような進化を遂げても、依然として私の理想とするLive専用コントローラーとは少しばかり違っていた。 よって、AbletonがAkaiと共同開発した新たなコントローラーPushが発売されると知った時、私がどれほど興奮したかは簡単に想像してもらえるだろう。最初に目に留まったのは当然のことながら、幅370mm、奥行き293mmというサイズだ。このサイズは写真を見て想像していたサイズよりもやや大きく、また2990gという重量も通常のMIDIコントローラーより重いものだが、実際に手に取ってみると丁度良いサイズで、重さも筐体の強度を重視した結果だということが理解できた。ラバーでコーティングされたメタル製の筐体はツアーで酷使されることを前提に開発されたものである。また、LEDバックライトは電源オン時のみ点灯するため、電源オフ時のPushは非常にミニマルで美しく、しっかりとデザインされた製品と言って良いだろう。 Pushの電源をオンにし、コンピューターに接続すると、8 x 8のグリッドパッドが点灯した後、巨大なLCDスクリーンに「Please start Live to Play」というメッセージが表示される。ドライバが不要のPushは、デフォルトではノートモードで立ち上がり、グリッドパッドで選択したトラックのMIDIノートを演奏できるようになるのだが、このデフォルト設定はPushの操作性において最初に気付いた不便なポイントだ。またマルチカラーのLEDの点灯が不安定だったことも問題だった。特にホワイトに点灯する際にその問題は顕著で、私がテストした製品では、ホワイトに点灯すべき時に、ピンクからグリーンに色が変わりながら点灯してしまうという症状が見られた。このように光るパッドがグリッド上に散らばる様子は厄介だったが、製品の致命的な欠陥というわけではないようで、FAQフォーラムを読む限り、Abletonもこの問題を認識しているため、早期解決を期待して良さそうだ。 Pushには2種類のモードが用意されており、ノートモードはそのうちのひとつということになるが、このモードではPushをベロシティセンシティブなMIDIインストゥルメントとして使用することができる。VSTやLiveのインストゥルメントの演奏用のパッドの配置はデフォルトではキーがC majorに合わせてある。そして音階は4度ごとに別の列へと重なりながら移動するようになっており、このユニークなパッド配列によってギターを演奏するように3本の指でスケール演奏することが可能になっている。尚、ノートのレイアウトは簡単に変更することが可能になっており、キーや列は「scales」ボタンを押すだけで、各スケールから全音が演奏できるクロマチックへ切り替えられるようになっている。このように常にキーを外すことなくスケール演奏できる機能は非常に便利で、キーボード上でのスムースな運指やスケールへの理解がないプロデューサーたちは重宝することになるだろう。ただし、このようなキーのカスタマイズはセッション内にセーブすることが不可能なため、Liveを立ち上げるごとに再設定する必要があるのは残念だ。 Drum Rackインストゥルメントが立ち上がっているMIDIトラックを選択すると、ノートモードは完全に別のパッド配列になる。グリッドパッドは3つのセクションに分割され、上部4段がステップシーケンサーとなり(現行のLiveでは32ステップに対応)、左下部の4 x 4のグリッドパッドはMPCのようなドラムパッドで、ここでパターンのレコーディングやシーケンス用のシングルヒットの選択を行う。そして右下部の4 x 4はループとして選択しているクリップのコントロールに使用する。このようなユニークなパッド配列は好印象が持てるものだが、Pushの先進的な機能の数々によって更に便利になっており、例えばPush上のボタンだけでノートやクリップの複製、実行/取り消し、選択したノートのクォンタイズなどを非常にスムースに行うことができる。Drum Rackのシーケンサー機能がNI Batteryのような他のVSTにも対応するようになれば完ぺきだろう。 2つ目のモード、セッションモードは、Liveのセッション上のクリップのロードやコントロールに使用する。このモードのPushは、以前から市場に出回っていたAbleton向けコントローラーに多少便利な機能を追加した製品のように感じられる。パッドのLEDはAbleton上のクリップの色とマッチするように光り、またプレイ/レコーディングされているクリップはそれぞれグリーンからホワイト、レッドからホワイトへと色を変えて発色する。セッションモードではクリップに対する削除/複製/新規作成/取り消しがボタンで操作することが可能なため、コンピューターのディスプレイを確認することなく、各種作業を行え、また制作が進みセッションのサイズが大きくなった場合は、シフトボタンの長押しでオーバービュー表示へと移行させることができる。パッド全体がLive上の8 x 8のクリップに対応しているので、各パッドを押せば特定のクリップへ移動することが可能となる。またパッド上部に位置する巨大なLCDディスプレイには8個のエンコーダーと16個の小さなバックライトボタンがついており、各種コントロールが今どのような状態にあるのかを詳細に示してくれる。またミックス時には8トラック分のヴォリューム、パン、センドの値がLCD上に表示され、その下部のバックライトボタン類で、選択、レコーディングのアーム、ストップ、そしてトラックのミュート/ソロを切り替えることが可能となっている。 またデバイスのパラメーターのコントロールも可能だが、Pushではかなり細かい部分まで調整できるようになっている。Ableton付属の各種デバイスの重要なパラメーターはデフォルトで表示されるが、ページを移動させることで更に細かい部分まで変化させることが可能で、ラック内のデバイスの調整、そしてチェーンも簡単に設定することが可能だ。そしてこのようなデバイスコントロールとノートモードは密接に連携しており、コントロールしているデバイスが立ち上がっているトラックのノート、また逆に演奏しているトラックのデバイスのみがコントロール可能となる。Pushのコントロールを特定のデバイスにロックすることができれば尚良いが、これは既にMax For LiveのSixteen Macrosなどで実現可能になっているため、あえて必要はないだろう。 個人的には多少変更を加えたいと思える部分があり、また前述した通りLEDの点灯時に問題があるPushだが、それ以外では非の打ちどころがない機材と言える。機能性も今不足していると思えるすべての部分が近い将来に解決されるはずで、たとえAbletonがやらなくてもMax for Liveのユーザーが解決してくれるだろう。ちなみにMaxとPushの双方向コミュニケーションにおける開発は既に進められており、日を追うごとにこの部分が充実してくるはずなので、遅々としたファームウェアのアップデートを待つ必要がないのは非常に新鮮だ。ただし、現行版のPushでもLive 9のユーザーにとって素晴らしい機材であることは疑いようのない事実であり、統合性に富んだ見事な製品と言って良いだろう。 評価: 価格: 3.5/5 多用途性: 5/5 筐体: 4.5/5 簡便性: 4/5
RA