Atoms for Peace - Amok

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  • Thom Yorkeは最近RAが行ったインタビューの中で、2006年にリリースされた彼のソロ・デビュー作『The Eraser』におけるラップトップ中心の制作プロセスを振り返って「すごく視野の狭いものだったね」と述べた。彼の擬似的ソロ・プロジェクトAtoms for Peaceのニューアルバム『Amok』におけるYorkeのアプローチはあらゆる意味で彼がMacBoookとにらめっこして過ごした膨大な時間に対するリアクションと言えるかもしれない。『The Eraser』でのライブ・メンバーたちを交えた濃密なスタジオ・セッションを素材にして繋ぎあわせた『Amok』はその緻密なソングライティングからリズムとテクスチャーを浮かび上がらせ、ベッドルーム・プロデューサー的な密室性からYorkeを解放し、自発的でのびのびとした何かを獲得しようとしているように窺える。 プロダクション面で言えば、空間的で(騒々しくファンキーな展開であっても)壮麗さをたたえた『Amok』は『The Eraser』と大幅に異なった手法で作られている。しかし、奇しくも「非常に視野が狭い」というYorkeの主観的表現は、Radioheadやその他のプロジェクト全般における我々の客観と一致する。実際、『The Eraser』でのテクノロジーを完全に偏重した傾向はそうした客観から納得のいくものだったし、『The Eraser』での脆くもタイトに仕立てられたサウンドデザインはYorkeのパラノイド的なソングライティングと完璧に調和していた。結果として、Yorkeのこれまでになくありのままの率直で誠実な姿が浮き彫りにされていたと言っていい。彼をこれまでポップ・ミュージックとエクスペリメンタル・ミュージック両面においてユニークで象徴的な存在までに押し上げたものを取り去ってもなお、この『Amok』でもYorkeのありのままが曝け出されているのだ。 彼は、出来ることなら裏方に徹したいのではないだろうか。『The Eraser』ではYork独特の哀愁がどっしりと中心に居座っていたが、この『Amok』ではそうした哀愁がエフェクトで塗り固められ、楽曲の奥底に沈み込んでいる。Yorkeは自身のヴォイスを従来のヴォーカル的な用途と並列に、テクスチャーとしても長らく使ってきたが、これみよがしにそのテナー・ヴォイスを聴かせることはごく稀だ。"Ingenue"でのYorkeは雑草の生い茂ったかのようなアレンジの、さらに奥へと溶け込んでいきそうなほど気怠く唄っている。闇雲にサウンドが飛び交う"Unless"において彼が"Care less/ I couldn't care less(知ったことじゃない/知ったことじゃないではすまされなかった)"と唄うとき、我々は彼を信じたいという気持ちにさせられる。かつては他の誰でもないYorkeならではのメロディ・ラインが横たわっていたところに、今回は良くも悪くも平凡なベースラインやギター・フレーズが彼の手によって奏でられている。 『Amok』は、決してYorkeらしい卓越した創造性が欠落した作品ではない。アルバム終盤の祝祭感の中では、音楽とともにエモーションが呻吟している。"Dropped"における彼の存在感は新鮮で、尖ったシンセがひたすら奇妙に浮いたパーカッションに埋もれ、ベーシストとして参加したFleaが作品中最も印象的なパフォーマンスを見せつけている(Red Hot Chili PeppersがFleaの本領だとすれば、ここでの存在感はやはり控えめではあるのだが)。AfPのライブセットで長らく練り上げられてきた"Judge Jury and Executioner"は、やはりうっとりするほど洗練された曲で、そのアコースティック・ギターの爪弾きや鋭いドラム・プログラミングはこのアルバムに必要なシャープネスを提供してくれている。こうした鮮やかな瞬間から想像するに、アルバム本体の退屈な展開以外にもまだ発表すべき曲はあるのではないかと思わされてしまう。 このアルバムはYorkeのDJギグや50 Weaponsからリリースされた彼のシングルのようなダンス・アルバムではないにせよ、それでも『Amok』は「曲」を集めたものというよりは「トラック」を集めたものであるように感じられる。クラブ・ミュージックにおける反復性、形式に対するオープンさ、ディテールへの執着に対してYorkeが親近感を抱いているのは知っての通りだ。しかし、Yorkeの友人でもあるDan Snaithが最近リリースしたアルバム『Daphni』などの作品にはYorkeが持っていないものが内包されているのも確かで、そうした優れたダンスミュージックの核心で爆発しているそのエピファニー(啓示)的な性質が無ければこの『Amok』も寄る辺のない作品になってしまっていただろう。
  • Tracklist
      01. Before Your Very Eyes 02. Default 03. Ingenue 04. Dropped 05. Unless 06. Stuck Together Pieces 07. Judge Jury and Executioner 08. Reverse Running 09. Amok
RA