Ableton - Live 9

  • Share
  • 2009年にAbletonがLive 8を発売してから今年で4年が経った。発売後はベルリンの本社がユーザーの不満を解消するためにアップデートやバグ修正、新機能などの追加を度々行う状況だったが、徐々に正式なバージョンアップが進行中であることが明らかになることで、セッションビューのオートメーションや同期の改良など、ユーザーから挙がっていた各種要望を実現するための大幅な変更が行われるという噂が流布していった。そして、昨年10月に沈黙が破られ、AbletonのYouTubeチャンネル上でビデオが公開されることで、新しいバスチャンネル用コンプレッサーGlue、また既存のLive上の機能修正などが明らかになった。このビデオは間もなく消去されたが、ニュースは数多くのブログで取り上げられ、Ableton側もLive 9の発売が間近であることを公式に発表。その後ベータテストが開始され、長年Abletonユーザーだった私も今回テストする機会に恵まれた。 Live 9のプレスリリースで重要は変更点として最初に強調されているのは、長年期待されていた機能、つまり前述のセッションビューのオートメーションが可能になったという点だ。Live 8までは、オートメーションの書き込みは横軸で制作するアレンジメントビューでのみ可能で、MIDIとオーディオのループ(クリップ)をトリガーしながら制作するグリッドベースのセッションビューではかなり面倒な手順を踏まなければ不可能だった。また、これまでのセッションビューもエンベロープの変化をクリップ上に書き込むことは出来たが、パラメーターの値を「%」で変化させるだけだったため、正確な数値の変化というわけではなかった。しかし、Live 9では、ユーザーは全てのデバイスやミキサーのパラメーターをマウスやMIDI経由でコントロールすることで、オートメーションをライブレコーディングすることが可能になっている。尚、旧来のエンベロープの書き込みへの互換性も残されてはいるが、この機能は基本的には隠されており、クリップのオートメーション上で右クリックし、「モジュレーションを表示」を選択することでアクセスするようになっている。またオートメーションの書き込み方法も追加されており、Option(Mac)またはAlt(Win)を押しながらマウスを使うことで、カーブを描くことができるようになっている。 今回追加された重要な新機能としてもうひとつ挙げられるのは、Melodyne的なアプローチを可能にする3つのオーディオ分析機能だ。今回のバージョンアップで、3通りの方法でオーディオからMIDIを抽出することが可能になった。「Melody to Midi」はその中で最も分かり易いもので、単純にオーディオクリップ内に存在する単音のメロディーラインを検出し、同じメロディーラインが同じタイミングで鳴らせるMIDIファイルを抽出する。また「Harmony to Midi」も基本的には同じ機能だが、単音のメロディーではなく、ピアノのコードのようなポリフォニックなメロディーに対応しているものだ。そして「Drums to MIDI」は、オーディオクリップからリズムを検出し、キック、スネア、ハイハットに分けて抽出する。ちなみに様々な音源を使ってこの3つの機能を試してみたがどれも出色の出来で、Live 9には新たに強力なクリエイティブツールが加わったと言えるだろう。口笛やハミングのメロディーからアイディアを生み出すことができるため、音楽制作に新たな一面を加えることになるはずだ。 また、今回のバージョンアップでは唯一の新規デバイスとしてGlue Compressorが追加された。これは基本的にはCytomicの人気VSTプラグインをLive専用デバイスとして組み込んだもので、80年代に「ドラムなどのバラつきのあるサウンドをひとつにまとめるコンプレッサー」として定評のあったSSL Eシリーズをモデルにしたコンプレッサーだ。また、Ableton従来のコンプレッサーにも新たに表示オプションが2つ追加されており、VUメーター方式の表示と、時間経過と共にコンプレッサーのかかり方がわかる波形表示が可能になった。尚、ゲートにも同様の波形表示、そしてスレッショルド付近のシグナルが生み出す、つっかかるようなサウンドを減少させる効果があるパラメーター「Return」が新たに追加されている。更にはEQにも大幅な変更が加えられており、EQ Eightがスペクトラム表示に対応し、スペクトラム用エフェクトを追加する必要がなくなっている他、オーディションモードでは周波数帯域ごとに分けて聴くことで、特定の帯域でどのように鳴っているのかが確認できるため、どの周波数帯域で問題が生じているのかがすぐに判断できるようになった。 今回は4年ぶりのバージョンアップということで、正直に言えば、もっと基本的な部分での大幅な変更があっても良かったと思うが、Live 9 Suiteを導入すれば、前述した機能よりも更に多くの機能を楽しむことができる。Suiteには今回からMax for Liveがデフォルトで組み込まれ、Maxのデバイスが新たに26個追加されている他、コンボリューション・リバーブやドラムシンセ、改良されたBuffer Shufflerや数多くのパラメーター/LFO系も含まれている。またAbletonの共同開発者であるRobert Henke(Monolake)も、先月Live 9のリリースを記念して新たなデバイスを本人のサイト上で発表している。以上のような新機能や、Robert Henkeのサイトやmaxforlive.comのようなライブラリ用サイトがネット上に整っていることを考慮すれば、Maxのパッチを組むこと自体にさほど興味がない人にとってもSuiteへのアップグレードは価格に見合った価値があると言えるだろう。 以上のように新たに追加されたデバイスや機能が豊富なLive 9だが、気になるのはその安定性だ。Live 8が発売された後、Abletonは開発の優先順位を新機能からバグの修正にシフトすることを正式に発表しており、実際、Live 9のベータ版を初めて使った時にはクラッシュの問題は殆どなかったが、Live 8で確認されたバグや機能の不具合のいくつかは修正されていなかった。その中で特に気になるのは、プラグインのレイテンシー関係だろう。ここでは具体的に触れないが(フォーラム内で回答されている)、これによってセッション内で時間経過と共に大きな問題となってくるタイミングのズレが生み出される可能性がある。 上記のような問題を抱えているAbleton Liveだが、最後のバージョンアップから4年経っているにせよ、依然としてDAWの市場において首位をキープすることになるだろう。オーディオ-MIDIの変換オプション、セッションビューのオートメーション、改良された新ブラウザ(検索機能が一新)、そして各種機能の追加やアップデートが施されたAbletonは一歩先を走っている。対抗馬となる他のDAWソフトも魅力的なベータ版を順次発表しているが、今回のバージョンアップはのめり込めるもので、その内容は価格以上と言えるだろう。 Ratings: Cost: 3.5/5 Versatility: 5/5 Sound: 4/5 Ease of use: 4/5
RA