Darkstar - News From Nowhere

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  • Darkstarは'00年代のダブステップ・ブームが産み落とした最も奇妙な遺産のひとつである。2010年の『North』で、彼らは沈鬱なガラージとダウナーなポップをこともなげに等しくシャッフルしてみせていた。サウンド面での類似性や抑圧されたその全体的なムードを別にすれば、『North』と彼らの音楽との間にほとんど共通点はないと言っていいだろう。ビーツが取り払われたその場所には、James Butteryが取って代わっており、そのヴォイスの存在はこのアルバムの重要な要素となっている。このアルバムにおける最も奇妙な点は、この(信頼に基づく)賭けが成功しているところにある。その新たな方向性は彼らの物悲しいソングライティングの作風にフィットし、『North』は孤独なデジタル・ラブソングを集めた美しい集合体となったのだ。その後彼らはHyperdubからWarpへと移籍し、またその音楽性も内気な囁きのようなものからキラキラと輝く、Grizzly Bear的なセレナーデへと変化してきた。 奇妙なエレクトロニック・サウンドがちりばめられ、静かなヴォイスに彩られた『News From Nowhere』の冒頭は、ある意味期待通りの滑り出しだ。しかし、最初のシングルとなった"Timeaway"では、このイギリス人トリオがこの3年間で遂げてきた進化の片鱗を無言のうちに覗かせはじめる。ファルセットのコーラスがさざめき、解読不明なリリックでありながらもそのよろめくようなメロディはどんな言葉よりも雄弁だ。Darkstarはもはや、ヴァースからコーラス、コーラスからヴァースへという従来的なソングライティング手法からは遠く離れている。ひとつのソングにおけるこの流体的な運動性は奇怪なエレクトロニクスに彩られた『North』には存在しなかったものであり、Butteryのヴォーカルはかすかな光で明滅するというよりは、むしろ空気に溶けていってしまいそうだ。 別の言葉で言えば、このアルバムは1stよりもさらに「ポップ」アルバムらしさを増していると言えるだろう。しかし、それは「正当なブリティッシュ・ポップ・アルバム」という意味であり、そこにはメランコリーさとダークな魅力がたっぷりと詰まっている。灰褐色に覆われたポスト・パンク時代から飛び出したようなアルバムであると同時に、Paul McCartneyが1980年に残したシンセ・アルバム『McCartney II』(リリース当時はかなり酷評されたが、のちに再評価された)をも思い起こさせる。たとえば、"A Day's Pay For A Day's Work"でのナーザリー・ライム(童謡)のようなメロディは、少しずつ動き続ける世界と溶ける電線のまっただ中に配置されている。"Amplified Ease"や"You Don't Need A Weatherman"で高揚したヴォーカル・レイヤーの実験をしているあたり、いかにもMcCartneyを彷彿とさせるが、そのやり口はAnimal Collectiveのような悪戯っ気やモダンさを秘めている。 こうした矛盾する衝動をぬるいスープのように仕立てるのは容易いが、この『News From Nowhere』はそうした予定調和を注意深い匙加減で見事に回避してみせている。ソングライティング自体はもちろん、曲の並べ方にも細心の注意が払われている。あからさまなポップさはさざ波の向こうに押し流されて漂っており、北極圏のパノラマのようなアルバム最終盤の曲"Hold Me Down"から"-"での霧深い光景、そして不安定な"Armonica"に至るまでの流れは、まるで疲れ切った翼がやっとのことでリード・メロディを支えているかのようだ。すべての良質なポップ・ミュージックがそうであるように、この『News From Nowhere』も短い尺にまとめられており、決してそのサウンドスケープに依存しすぎていはいない。それでも、そのサウンドスケープはそれぞれのトラックを数分聴くだけでも引き込まれる強度を持ち合わせている。 もし、Darkstarがその初期の姿をまったく留めていないとしても。その鈍い痛みに胸をしめつけられるような感覚や遠くで響く痛切さは"Aidy's Girl Is A Computer"をダンスミュージックにおける強烈な魅力を持ったトラックたらしめた手法とまったく変わらない。『News From Nowhere』はそのエモーションを一点に集中させ、より高い共感を呼ぶ痛切さに近いものに進歩させたと言う事が出来る。
  • Tracklist
      01. Light Body Clock Starter 02. Timeaway 03. Armonica 04. - 05. A Day's Pay For A Day's Work 06. Young Heart's 07. Amplified Ease 08. You Don't Need A Weatherman 09. Bed Music - North View 10. Hold Me Down
RA