Levon Vincent - Stereo Systems

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  • Levon Vincentを名声を名実共に確実なものとした、かの素晴らしき『fabric 63』以来となる新作。ミックスでは正真正銘エクスクルーシブ・トラックのみで構成されており(言うまでもなく、そのどれもが素晴らしかったのだが)、それらの正式なヴァイナルでのリリースが心待ちにされていた。ミックス中では比較的控えめなハイライトを飾っていた"Stereo Systems"はまさしくVincentらしいミニマルさを持ったトラックで、ファットでなめらかなキックドラムにGiorgio Moroderスタイルのシンセ・アルペジオがダークに淡々と重ねられている。しかしながら、時折鳴らされる狙いすましたかのようなノイズやそこから引き出される繊細なテンションとダイナミクスなどのディテールは抜群。その対立構造的ミニマリズムは濃密かつ性急な体験を用意しているが、その包容力のあるキックドラムはダンスフロアーの無意識状態に誘う時限装置のようでもあり、純然たる肉体的な音楽でもあると言えよう。最後に現れるサプライズは、まるで教会音楽のようなコーダだ。フルートのような豊かさを持つそのコードはともすれば感傷的になりすぎるのだが、トラック全体の絶え間のないダークさにあっては背筋がゾクゾクとするような開放感を与えている。 そのテンションの圧力はBサイドでも依然として変わらない。"Together Forever"は普段の彼にも増して威圧的で、黙示録的なグルーヴがノイズのぶつかり合いによる爆発やガス状のタイトにシンコペートするパッドと共に刻まれている。敢えて言うなら、まるで間欠泉が踊っているかのようだ。そうしたダークなトラックが続く中、最後の"Speck's Jam"は非常に効果的なアクセントになっており、そのダブル・ベースやうっすらとしたスウィング感がいかにもニューヨーク産らしい雰囲気を漂わせているのだが、Vincentのトレードマークとも言えるBasic Channel的ダブ・コードや吐息のようなサウンドの断片をリズミックに並べる手法もピリっと効いている。まったくもって間違いのない仕上がりであるが、その漆黒のウェアハウスのようなアトモスフィアはやはり不気味で、瞬時にしてリスナーを棒立ちにして包み込もうとしている。
RA