Acid Pauli - Get Lost V

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  • Acid PauliはそのDJキャリアにおいて、目眩がするほどのオーケストラ的な展開とリズムのトリック(それはしばしば白熱したクラウドをドキッとさせる)とのあいだを自由に行き来しながら、穏やかなサイケデリアとスタイリッシュな独自性を貫いている。BAR 25の祝祭的なダンスフロアーではしっとりとしたダウンテンポでクラウドを幻惑している彼は、Martin Gretschmannという名を名乗ってBjörkのアルバム・プロデュースに関わり(訳注:『Vespertine』でのConsole名義)、Nicolas JaarのClown & Sunsetからもアルバムをリリースしている(彼の静かなエモーショナルさに偏向した作風にはぴったりのレーベルだろう)。彼独特の、トリッキーなタイミングでグルーヴを崩すというやり口はこの『Get Lost V』でも至る所で発揮されており、没入的な物語性という制限において絶妙なアクセントになっているようだ。 CD1のスタートでは、Nu "Man O To"といったトラックがじわじわとヒプノティックな領域を広げていき、厳かさと下卑さの隙間を突くように立ち上がっていく。Kadeboston "Love in Looxor"でのキッチンシンクを叩くようなパーカッション、Jan Turkenburg "In My Spaceship"での愛嬌たっぷりにふざけたヴォーカルなどは、思わずダンスフロアーに駆け出したい気持ちにさせるということはないし、そうした意図での選曲でもなさそうだ。そうしたムードは"El Zahir (Acid Pauli's Acid Dub)"でも変わらず、爪弾くようなギター・フレーズが逃げるかのように素早く渦を巻き、5分間ものあいだじわじわとした多幸感が続く。Stimming "November Morning"は冬の寒さのなか立ち上る蒸気のようなエナジーがはじけ、ホットチョコレートと倦怠感がないまぜになったかのような感覚をおぼえる。イスラムのスーフィー詩人であるRumiをフィーチャーした閉所恐怖症的なNu "Earth"ではうっとりするようなエンディングが用意されており、PauliがメキシコDay Zeroフェスティパルのマヤ・ピラミッドでのパーティに呼ばれた理由をスペーシーな感覚とともに思い起こさせてくれる。 Pauliはまちがいなく「黙々と踊らせる」タイプのDJというよりはオーディエンスを光芒とさせることにおいてその実力を発揮する。しかし、CD2のピークでは黙々と踊らせつつ光芒感を与えるという相違する要素を見事に融合し両立させている。とりわけ、後半では彼らしいミックス・スタイルが余すところ無く発揮されている。Tempo di Roma "Move Your Bones"ではリズムの隙間を判読不可能なウィスパー・ヴォイスがゆるやかに泳ぎ回っているかと思うと、次のDirty Doeringのトラックでのバロック調ストリングスでは目を見開かんばかりの幻想性に導かれる。その一方、Amirali "Hear Me"では息の詰まるようなパラノイアと漠然とした恐怖感に襲われる。 そうした流れの中ではCalico Horse "Idioteque"のフォーキーなアコースティック・カヴァーは選曲ミスというか、ギミック性に走り過ぎて流れが破綻している。繊細で軽快なギターがフィーチャーされたBlackIsBeautiful "Pergamon"ではその流れを素早く取り戻し、Pauliが持つ牧歌的なグルーヴ感を非常によく表している。Francesca Lombardo "Is It True?"ではエモーショナルな感覚がピークに達し、風変わりなブリープとヴェールを帯びたようなヴォイスがユニゾンとなって浮かび上がり、ぼろぼろの燈台のように不確かな回転を続けている。ほとんど感傷的なほどにマジカルなその瞬間はミックスの文脈にさらなる色合いの深さを与えている。ここからはミックスがより濃密になり、ダーティなベースへの期待が高まるのだが、Monkey Mafia "I Know You N.m.S"ではそれが寸止めになっている。そこからPauliはAutechreのトラックやBruce Springsteen "I'm On Fire"のカヴァーなどを使ってスローダウンをはじめる。Lake Powel "Bright Eyes, Dirty Hair"はまさにこのミックスを締めくくるのに最適なトラックであると言え、ダンスフロアーに差し込むひとすじの朝の光のように、Pauliはクラウドにさらなる冒険のためのエナジーを注入する。
  • Tracklist
      01. Ammer & Console (feat Reinhard Furrer) - Dann ist elektronische Musik an meinem Ohr 02. NU - MAN O TO 03. Normal Brain - M-U-S-I-C 04. Soulcenter - What you're doin (Acid Pauli edit) 05. Kadebostan - Love in Looxor 06. Raz Ohara - El Zahir (Acid Pauli's Acid Dub) 07. Günther Lause - Mountain 08. Console - Grüner Raum 09. Jan Turkenburg - In My Spaceship 10. Acid Pauli & Laura Weider - Oregano 11. Move D - Things Will Come (…for Those Who Wait) 12. Ian Simmonds - The Wendelstein Variations 13. Stimming - November Morning 14. Juno6 - Dead Cities (Douglas Greed Remix) 15. Nicolas Jaar - Play The Drums For Me 16. NU - EARTH 17. Stephen Brown - Cane't 2 18. Acid Pauli - Farewell Fred 19. Acid Pauli - Music Is Silence 20. Pele & Nico Stojan- Belladonna 21. dOP feat. Sibiri Samaké - Foly 22. dOP - Ikarus 23. Acid Pauli & Nannue Tipitier - Zeit Löschen 24. Gunjah, Niconé - Peaz, Luv & Harmonium 25. Taron Trekka - G.Samsa 26. SIS - Machiste 27. Kabale Und Liebe - Una Y Nada 28. Tempo Di Roma - Move Your Bones 29. Dirty Doering - Eté Pluvieux 30. Amirali - Hear Me 31. Calico Horse - Idioteque 32. BlackIsBeautiful - Pergamon 33. Francesca Lombardo - Is It True 34. Metrika - Aok ot 35. Console – Trainset 36. Monkey Maffia - I Know You N.m.S. 37. Rayon - Libanon 7 38. Lou Kasard feat. Benno - Once upon 39. Autechre - Overand 40. The Band That Never Met - I'm On Fire 41. Lake Powel - Bright Eyes, Dirty Hair
RA