- Kompakt Extraの存在を憶えているだろうか？もともとはフロア対応のDJツール専門サブレーベルとしてケルンの名門が立ち上げたこのシリーズは、その最盛期であった2007年には1年の間に13枚もの12インチをリリースしていた。その後は徐々にリリース・ペースが落ち、主にKompaktファミリーに属するドイツ人アーティストの作品を中心にリリースしてきていたものの、正直に言えばそこに驚きの要素が不足していたのも確かだ。ここにきてOstgut TonのNick HöppnerとグラスゴーのAuntie Floを組み合わせたこのスプリットEPは、その組み合わせが効果的であるかはさておき、ここ最近のExtraシリーズでは最も興味深いリリースであると言えよう。
ここに収録されたそれぞれのトラックはお世辞にも彼らのキャリアにおける最良のトラックであるとは言えないにせよ、少なくともこの硬直化したシリーズに新風を吹き込んでいるのは確かだ。Höppnerの"Ipso Facto"ではKompkatのボスであるWolfgang Voigtの作風にどこか寄り添った感触があり、VoigtのGas名義を思わせる深い泥沼から沸き上がる水のようなフロウと、鋭くクリーンなサウンドデザインが対比されている。Auntie Floの"Sun Ritual"はほとんどメロディのようにも聴こえるドラム・ブレイクで始まり、初期のRicardo Villalobosが手掛けていたリミックス群を想起させる。しかし、そのシンプルなメロディにリズムが割り込みはじめるとAunti Floらしいシャッフル感覚が顔を覗かせはじめ、（Höppner同様に）クールに凍った温度感をキープしながら彼らしい熱っぽさを同時に封じ込めてみせている。