electraglide 2012

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  • 国内最大級の屋内ダンスミュージック・フェスティバルとして2000年にスタートし、毎回国内外のトップアーティストを招聘し、エレクトロニックミュージックの現在をファンに届けてきたelectraglide。テクノに限定せず、エレクトロニック・シーンの方々で活躍するアクトを包括する幅広いラインナップが魅力のフェスだが、2009年以来の、実に3年越しの開催となった2012年版のelectraglideは、時代を反映させたラインナップが揃い、ファンにはたまらない一夜となった。 Photo Credit: 宇宙大使☆スター 11月23日(金)午後9時前。会場の幕張メッセの入り口では、オープン前から長蛇の列が。9時を迎え、やっとの事で場内に足を踏み入れると、そこに広がるのは異空間。照明は極限まで絞られ、真鍋大度率いるRhizomatiksによるロボットアーム型レーザーが闇を切り裂き、幻想的な空間を演出していた。ライブ/DJが行われるのはHall 9と11であり、Hall 10ではバーやテーブルが設置され憩いの場を提供。フードコートでは、様々な温かいフードやドリンクが販売され、hall 9に向かう途中に立ち並ぶショップでは、TシャツなどのグッズやCD、レコードなどが売られていた。Hall 11に行ってみると、すでに音楽家/映像作家の高木正勝のライブが始まっており、ダンスミュージックのお祭りにピアノのソロライブとはシュールな、と感じたのも束の間。彼が紡ぐメロディにいつの間にやら魅了されていた。 9時半を回った頃、Hall 9のオープニングアクト、Kode9のプレイがスタート。前夜祭にLIQUIDROOMでも回したHyperdubの総帥は、ベース・ミュージックを中心に威圧的な低音と中毒性の高いリズムを次々と繰り出し、ダンスフロアの熱気を急上昇させた。一方、10時を過ぎた頃Hall 11では、若干19歳にしてJames Holdenに見出され、Border Communityの看板アーティストにまで登りつめたNathan Fakeが登場。シューゲイズ・テクノの天才と呼ばれるに相応しいセットを披露し、観客を虜にした。 Hall 9でのKode9のセットが終わると、世界各地で話題になっているISAM Liveを初めて日本で公開する、Amon Tobinのステージが幕を開けた。プロジェクション・マッピングを駆使し、幾つも積み上げられたキューブ型のスクリーンに投影される光と映像、そして音。そしてその中心に時たま現れるAmonの姿。言葉で形容しても伝わらない、見ないと理解できない魔法のような前代未聞のショーに踊ることすら忘れて、ただただ見惚れていたのは筆者だけではないはずだ。その頃、Hall 11では日本が誇るターンテーブリスト、DJ Kentaroがブースに登場。ヒップホップからダブステップ、トラップ、ドラム&ベースを消化した独自のセンスで迫力満載のダンスミュージックを操り、世界チャンプらしいスキルとショーマンシップでフロアを盛り上げた。 Photo Credit: TEPPEI 時刻が零時を回った頃、Hall 9ではこれまた日本から世界へと羽ばたいたレジェンド、DJ Krushのセットがスタート。ルーツはヒップホップでありながらも、常に進化を遂げ、世界中のプロデューサーに影響を与え続けている彼らしい、エレクトロニックミュージックの“今”を落とし込んだDJプレイを魅せた。しかし、もっと人が居てもいいのに、と不思議に思いHall 11のほうを覗いてみると、なるほど、電気グルーヴのステージが始まっていた。日本でのテクノの普及に貢献した最重要グループの、色彩豊かなサウンドにフロアは狂喜乱舞の大盛り上がり。結成23年を迎えた電気グルーヴの人気は、まだまだ衰えることを知らない。 そして、午前1時を過ぎた頃、Hall 9ではこれまたオーディオとビジュアルを融合した圧巻のライブが世界で注目されているSquarepusherが登場。DJブースのLEDスクリーンと、被っているヘルメットのスクリーン、そしてバックにある巨大なLEDスクリーンに、音に合わせて光が様々な形を成して輝く。鼓膜と網膜両方に訴えかける、刺激的な電子音と発光ダイオードの世界にオーディエンスは酔いしれた。一方、Hall 11では8月に『Pink』をリリースしたフォークトロニカのパイオニア、Four Tetのライブが行われていた。少しずつ音を足しながら高揚感を高めたり、突如BPMを極端に早めたと思うと今度は遅くするなど、様々な方法で巧みに盛り上がり部分を作り、夢見心地のオーディエンスを快楽へと誘った。 2時半を過ぎた頃、注目のビートメイカー・デュオ、TNGHTがHall 9のステージに参上。カニエ・ウエストのレーベルコンピに参加するなど今や飛ぶ鳥を落とす勢いのHudson Mohawkeと、Luniceの2人が爆発音のような808キックとスネアを繰り出し、重低音の波動でフロアを揺さぶった。新鋭の2人組みがダンスミュージックの最先端を響かせていた間、Hall 11では、90年代を代表するテクノデュオであり、今年久しぶりのアルバムを発表した伝説のOrbitalが、重厚かつメロディアスなサウンドでダンスフロアを沸かしていた。Underworld、Chemical Brothers、Prodigyと共にテクノ・シーンの発展に大きく貢献した大ベテランの12年ぶりのelectraglideの公演は、多くのダンスミュージックファンの夢が叶った瞬間だったのではないだろうか。 Photo Credit: Tadamasa Iguchi 時計が3時半を過ぎた頃に満を持してHall 9に登場したのが、近年のビート・ミュージック・ム−ヴメントの台風の目、Flying Lotus。最新作『Until the Quiet Comes』を発表したばかりの彼は、透明な巨大スクリーンの後ろに現れ、ライブを開始。彼を挟むように設置された2枚のスクリーンには、多面的な彼の音楽を視覚化した映像が映し出され、スピーカーから放たれるFlyloの異次元サウンドとシンクロ。つい先日亡くなってしまった盟友の天才ピアニスト、Austin Peraltaの美しいピアノの旋律から始まった彼のセットには、若くして旅立ってしまったAustinへの追悼の念も込められていた。その間、Hall 11ではUKで最もリスペクトされている巨匠DJ、Andrew Weatherallがプレイを開始していた。Timothy J. Fairplayとのユニット、The Asphodellsとして最近アルバムを出したばかりの彼は、25年に及ぶキャリアの中で培った知識と経験が滲み出た、センスのあるプレイで熟練工らしい間違いないセットを披露した。 そして、5時を回った頃、ラストアクトのMark PritchardとTom Middletonの貴重なバック・トゥー・バックがHall 9でスタート。90年代にアンビエント・テクノの雄、Global Communicationとして人気を博し、以降数々のグループやソロプロジェクトを通して、独自のエレクトロニックミュージックを世に送り出し続けてきた2人は、最高な夜の締めくくりに相応しい幅広く壮大なプレイを魅せ、踊り足りない猛者達を朝まで夢中にさせた。 今やPCでDJをするのが主流になり、白いリンゴのマークが浮かぶ銀色のノートパソコンに向かって操作しているDJの姿を見る機会が増えた現代だからこそ、聴覚だけでなく視覚的にも刺激的な、趣向を凝らしたライブを創り上げるアーティストが確実に印象に残る。今後も増えるのではないかと思う。iPodやiPhoneで音楽を聴くだけでは得られない、生で体感する音楽の喜びを増幅してくれるアーティストが。 Photo Credit: 宇宙大使☆スター Top Photo Credit: Masanori Naruse
RA