Keith McMillen Instruments - QuNeo

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  • センサーテクノロジーは他のテクノロジーと同様に急速なペースで成長している分野である。そしてその進歩はMIDIコントローラーの分野にも生かされており、近年その中で最も興味深い製品のひとつとして知られているのが今回紹介するQuNeoだ。この製品は「3Dコントローラー」という触れ込みで、要するに入力を3次元で感知する。QuNeoには様々な種類のセンサーが組み込まれており、パッドとして必要なセンサーは全て揃っていると言えるだろう。Keith McMillen Instrumentsが開発したこの製品は、元々Kickstarter(アイディアに対して費用を投資してもらうサイト)上で発表され、発表当時は15000ドルの開発費が目標額として設定されていたが、Herbie HancockやLed ZeppelinのJohn Paul Jonesなどがサポートに名乗りを上げたこともあり、最終的にはその10倍の資金を得て開発が実現することになった。 しかし、製品化は難航した。コンポーネント部の欠陥が見つかり、サプライヤー側との長い議論の末、オリジナルバージョンを回収して新しいバージョンが開発されることになったのだが、新しいバージョンにも欠陥が見つかったのだ。最終的には生産工場を変えることで全ての問題が解決されたが、結果的に発売は予定よりも半年遅れることになった。 さて、QuNeoの特徴だが、何といってもその多用性だろう。数多くのソフトウェアのポテンシャルを引き出すようなテンプレートやプリセットが面倒な設定をすることなくすぐに使えるようになっており、Ableton、Logic、Reason、Traktor、そしてKorg iMS-20やBeatMakerといったiPad用ソフトにも対応している。特にAbletonでは、パッドの四隅を使ってクリップをロードするなど基本的にはAKAI APC-40のコンパクト版のように機能させることが可能で、センド、チャンネルフェーダー、各種コントロール、そしてメトロノームからオーバーダビングまで、必要な機能を殆ど全てQuNeo上で操作することが可能だ。 尚、QuNeoにはステップシーケンサー機能もついているが、通常のパッド用プリセット他、AbletonのドラムトラックとBattery用のプリセットも設けられており、「ページ」を切り替えることでドラムパッドとして使用することも可能だ。ちなみにこのようなプリセットのページ間の切り替えはボタンを2回押すだけとなっており、キーボードとして使用することを厭わなければ、この製品ひとつで全てが操作できると言えるだろう。言うなれば、このようにユニバーサルに機能するこの製品の限界は、そのユニバーサル性を重んじたことによって生まれたこの「切り替え」で、つまり同時に操作できるのが1つの機能に限られているということだけだ。 QuNeoをもう少し詳しく見ていくと、この製品の機能は例えどのような目的であっても全てエディット可能だという点に気付く。全センサーは付属ソフトウェアのQuNeo Editorでエディットしていくのだが、実際どんなセンサーがQuNeoに備わっているのかという点について見ていこう。まず全てにベロシティとプレッシャーセンサーが備わっている。またパッドのXY軸の位置情報、スライダーの位置情報、ロングスライダーの位置情報及び2点間の距離情報、ロータリーパッドの位置情報及びタッチの方向情報を検出することが可能だ。ちなみにロータリーパッドの1回転の解像度は4069ティックで、これは殆どの全てのタイムコード・ヴァイナルよりも高い解像度を誇り、スライダーも0.4mm単位の検出精度を誇っている。また全パッドの各コーナーはノート、ベロシティ、プレッシャー情報を検出することが可能で、これらはMIDIノートまたはコントロールチェンジとしてコンピューターへ送られる。 このようにQuNeo Editorを使えば、自分の好きなようにカスタマイズすることが可能だが、この付属のソフトウェアには意外な機能がいくつか備わっている。まず特筆すべきは、ドラムパッドの感知レベルをカスタマイズできる機能で、自分のお気に入りの他社のドラムパッドの感知レベルを模したプリセットが用意されている。また、LEDの点灯を変更できる機能も備わっている。そしてインターフェイスは秀逸で、かなりの数のパラメーターに対応しているにも関わらず、少し時間をかければ簡単にナビゲートできるようになっている。更にOSC(OpenSound Control)にも対応しており、QuNeoのデータをOSCのメッセージとして送ることが可能になる。これは対応しているソフトウェアを使っている場合には便利だろう。尚、別売りのオプションではあるが、QuNeoにMIDIポートやiPad用のケーブルを追加することも可能だ(ノーマルはUSB接続のみ)。 またボディも非常に良く出来ている。非常に薄く軽量だがiPadと同サイズで、マイクスタンド用クリップなど、iPad用アクセサリーの殆どをそのまま使用することが可能だ。また、このように小さく軽いボディにも関わらず非常に頑丈で、激しく叩いても問題はない。またビールをこぼしても問題はなく、私が所有する他の機材よりも優れた撥水性を誇っている。LEDもフィードバックインフォメーションの確認用としては非常に優れており、4色で点灯。明るさも16段階で表現される。またフェーダー部はVUメーターとしても機能する。 さて、次に欠点はあるのかという点だが、基本的には何もないと言ってしまって構わないだろう。ドラムパッドの反応性は非常に良く、私が所有するMPD24では不可能だったポリリズムな軽いタッチにも反応する。スライダー、そしてパッドのコーナーのタッチはそれよりももう少し丁寧に触れる必要があるが、決して悪いものではない。唯一気になった点は、ロータリーを使用してAbleton上のループのスタートポイントとエンドポイントを設定しようとした時で、これは内蔵されているテンプレートを使用して行うのだが、自分の希望する位置に持っていくのが難しかった。またフェーダーの操作がやや落ち着かない時もあった。ただし、これらの問題はセンサーのノイズ特性によるセンサーデータの処理能力が改良されれば解決できるだろう。またQuNeo Editorから簡単に行えるファームウェアのアップデートによって、これらのような問題が将来的に解決されることに期待したい。 個人的にQuNeoは「急進的な」ハードウェアではなく、「漸進的」なハードウェアに感じられるもので、最新のセンサーを常識範囲内で使用している製品だ。勿論冒険的な部分もあり、誤動作の可能性も残されているが、彼らはそのようなリスクを、時間をかけて完成版を目指すというプロフェッショナリズムで軽減することに成功したようだ。 Ratings: Cost: 4.5/5 Versatility: 5/5 Build: 5/5 Ease of use: 4.5/5
RA